📖赤本(第4版)関連箇所:〚カルチャーショック〛P248~
この問題はカルチャーショックに関わるものだと思われますが、正直言って、正解の根拠がどこにあるのか分かりませんでした。
1 一般的に思春期の人と高齢者は異文化不適応を起こしやすいとされています。このことについては、以下の通り赤本にもしっかり記載してあります。
(赤本P324からの引用)
異文化に接触する人の中には、適応がうまくいかずに異文化に拒絶反応を示す人も多い。カナダ移住者の異文化適応を調べた研究報告では、「適応の遅い老年層、文化的自己同一性の危機から非行などに走りやすい思春期世代、主婦」が最も異文化不適応を起こしやすいとしている。このようなグループをハイリスクグループと呼ぶ。よって、選択肢1の内容は適当ではありません。
2 正解は2とのことですが、この内容を正解とする根拠、データの出所がどこにあるのか分かりません。きっと、日本語教育に携わる者は目を通しておかなければならないと考えられている出版物やウェブサイトに掲載されているものなんでしょうけど・・・・。
ちなみに赤本では、カルチャーショックに関する記述の中で「ショック期がいつ始まるかは個人や状況によって異なる。ハネムーン期がどのくらい続き、いつショック期に移行するかは個人差がある。また、安定期に達しても、再びショック期に戻ることもある」(赤本P249)としか言及されていません。
3 この選択肢もビミョーな内容だと思います。「(移住後の生活に)適応しにくい」という内容はメンタルヘルスに関係する内容なのかどうか・・・・。たとえば、「自分と同じ文化のコミュニティに接触できる環境にある人は、地域のコミュニティには適応しにくいが、精神面では危機に陥りにくい」という言い方もできる気がするので、そういう理解でいいのかどうか・・・・
4 たとえば、その国の歴史とか宗教とか社会体制とか言語とか物価とか価値観など、事前に調べられるものは調べてから行った方が、何も準備しないで行く人より、移住後に受けるショックや精神的ストレスも少なく、挫折しにくくなるのではないかと思いますが、
移住後に対応すればいいと考える人は細かいことを気にしない楽観的な性格であって、事前に入念に準備する神経質で心配性の人より、問題に直面してもフレキシブルに対応できるから挫折しにくい、と考えることもできるのではないかと・・・・
ということで、正解は2ということです。
検定試験の問題になっているということは、選択肢2が正解となる科学的な根拠があるのだと思いますが、それがどこにあるのか(載っているのか)分かりませんでした。
誰か分かる人がいたら、教えてください。
☞超重要絶対暗記 《カルチャーショック》
⦿カルチャーショック:異文化と接触したとき、自文化との違いに衝撃を受けること。衝撃を受けたあと4つの段階を経て、新しい習慣が受け入れられるようになるとする。
・ハネムーン期:異文化接触の初期段階。景色や食べ物など何もかもが新鮮で、高い期待感と希望に満ち溢れている心理状態の時期。
・ショック期:ハネムーン期の興奮状態がおさまってくると、新しい文化や習慣に敵対心を持ったり、期待感が失望感に変わり焦燥感などにかられる状態の時期。
・回復期:ショック期の落ち込みを克服し、新しい文化や習慣に順応していく時期。
・安定期:新しい文化や習慣を受け入れ、精神的にも安定し異文化理解が進む時期。
問2 (マズローによる)「最も高次の欲求」として適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:P326「図4-1-3 マズローの欲求5段階説」
マズローの欲求五段階説についての問題です。欲求五段階説は、日本語教育のみならず、アカデミックのあらゆる分野において頻出する超重要事項なので、ご存知でなかった方はこれを機会に覚えておくといいと思います。
問題文にある通り、マズローは、人間の欲求について階層を持つものとして理論化し、下位の欲求が満たされると高次の欲求につながるとしました。その階層数は5つで、下から「生理的欲求」、「安全欲求」、「所属・愛情欲求(社会的欲求)」、「尊敬・承認欲求」となり、最も高次の欲求が「自己実現の欲求」であるとしています。
もう少し具体的に説明すると、人間にはまず人が生きていくうえで欠かせない「食べたい」「飲みたい」「寝たい」などの生理的欲求があって、それが十分に満たされると、「健康でいたい」「安全・安心な暮らしがしたい」という安全欲求が生じ、安全欲求が満たされると今度は、人との繋がりによって得られる仲間意識、帰属意識からくる精神的な安心感(社会的欲求)を求め、そうすると他者から認められたいという尊敬・承認欲求が芽生え、最終的には、あるべき自分になりたいという自己実現欲求につながっていくというものです。
したがって、正解は4になります。
☞超重要絶対暗記 《マズローの欲求五段階説》
⦿マズローの欲求五段階説:マズローは、人間の欲求について階層を持つものとして理論化し、下位の欲求が満たされると高次の欲求につながるとした。その階層数は5つで、下から「生理的欲求」、「安全欲求」、「所属・愛情欲求(社会的欲求)」、「尊敬・承認欲求」となり、最も高次の欲求が「自己実現の欲求」であるとした。
問3 「防衛機制」の一つである「合理化」の例として適当なものを選ぶ問題
「防衛機制」という難しい用語が出てきますが焦る必要はありません。こういう難しい用語に関する問題は文脈から論理的に考えれば解けるようになっています。「『防衛機制』という言葉を知っていないとダメ」というように、ただ単に知識があるかないかだけを問う問題にしていないところが、日本語教育能力検定試験のいいところだと思います。
問題文を読んでみると「現実世界と欲求の間には『葛藤』が生じやすい。それに対して心の安定を保とうとする働きが『防衛機制』である」と記載されてあります。
つまり、防衛機制とは、「現実世界と欲求の間に生じた葛藤に対して、心の安定を保とうとする働き」です。
で、問3の設問によれば、その一つが「合理化」ということですから、設問を以下のように読みかえれば分かりやすいのではないでしょうか。
「現実世界と欲求の間に生じた葛藤に対して、合理的に心の安定を保とうとする例ととして最も適当なものを選べ」
1 日本語には漢字がある(「現実世界」)から、漢字を読みたい(「欲求」)けど、漢字が読めないという「葛藤」に対して、「会話において漢字は関係ないから大した問題ではない」と合理的に考える(「合理化」)ことで、納得する(=心の安定を保とうとする)。合理化の例として適当だと思います。
2 好きなアニメキャラクターと同じ格好がしたいからした、というだけで、そこには「葛藤」も「合理化」も見出せません。
3 理想の先生像(「欲求」)と実際の先生(「現実世界」)との間の「葛藤」は見られますが、その不満を母親にぶつけたところで、「現実」と「欲求」の間のギャップが埋まるわけではないので、合理化とは言えません。この場合における合理化とは、たとえば、「でも、前の先生よりはマシだな」とか「ルールに関しては厳しいけど、宿題は少ないからいいか」とか、心の葛藤を軽減するための理由付けということになると思います。
4 日本語で良い点数を取りたいという「欲求」と、良い点数が取れないという「現実」との間に生じた「葛藤」に対して、英語で良い成績を取るという行為は、日本語の葛藤から目を背けるものであり、日本語について心の安定をもたらす「合理的」な行動とは言えません。
したがって、正解は1になります。
💡解法のポイント
⦿赤本にも出てこないような超難用語に関する問題は、文脈から論理的に考えれば解けるように作られています。冷静に考えれば文脈から正解することができる問題がほとんどです。ですから、そのような超難用語を問う問題は、その用語を知らないがゆえに考えるのを諦めてしまった多くの受験者と差をつける絶好のチャンスなのです。
問4 「(日本語教師は)留学生の心理的な混乱と不適応に対応する」ことの例として適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:〚指導と支援〛P186、〚学習者援助〛P254
近年求められる教師のあり方は、「教える(教え込む)」という立場ではなく、学習者の学習活動を「支援する」という立場です。そしてさらに、「共に学ぶ」という考え方にシフトしてきています。
(赤本P186から抜粋)
具体的に必要な支援には、以下のものがある。
①学習支援
学習支援とは、学習者が満足できる授業を提供することである。学習者のニーズやレティネスを分析し、学習者の状況に合わせて授業内容をアレンジすることが必要である。
②生活支援
学習者が日本語学習により、自己実現できるような環境を提供することが必要である。
③教師の人間性がもたらす支援
教師と学習者が良い関係を築くことが学習者へ良い効果をもたらす。
1 睡眠薬をもらったとしても、根本的な解決にはなりません。まずは悩み事や困っていることがないかなど留学生と話をして、睡眠不足を引き起こしている心理的な混乱や不適応の原因を軽減してやることが大事なことでしょう。それでも解決しなければ精神科の受診を勧めるべきなのではないかとと思います。
2 なぜ病的な行動をとってしまうのか、その原因を究明し取り除いてやることが必要です。
3 心理的なトラブルは非常にデリケートな問題なので、まずは当たり障りのない基本的な質問などからその学生に心理的な混乱や不適応を来している原因を探る、という選択肢3の内容は適当だと思います。
4 国の両親に連絡しても、心配させるだけで両親がすぐにどうこうできる話ではないですよね。症状が軽ければ、その学生と話をするなどしてその原因を探り、症状が重ければ、精神科等に診てもらうべきなのではないかと思います。
したがって、正解は3になります。
☞超重要絶対暗記 《日本語教師の役割》
⦿近年の言語教育における教授者と学習者の関係は、「教える/教わる」という一方的な関係ではなく、教授者は学習者の学習活動を「支援する」、さらには教授者と学習者が「共に学ぶ」という関係にシフトしている。
教授者による学習者への支援には以下のものがある。
⦿学習支援:学習者が満足できる授業を提供すること。
⦿生活支援:学習者が日本語学習により、自己実現できるような環境を提供すること。
⦿教師の人間性がもたらす支援:学習者が教授者を信頼することによって(教授者と学習者が良い関係を築くことによって)、学習者の学習に良い効果をもたらすこと。
問5 「異文化カウンセリング」に関して、留学生から相談を受ける際の留意点として適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:〚文化相対主義〛P255、P322
1 相談者の体験や異文化的な背景を、その相談者特有の事象として見なければ、その相談者が抱えている問題(の原因)に気付くことができないのではないでしょうか。
2 相談者は、その文化に馴染めず心理的な混乱を来している状態なので、相談者の発言や行動を共感的に受け入れる姿勢が必要だと思います。
3 留学生は日本語でうまく表現できていないことを想定し、言語化された言葉だけでなく、非言語的な印象にも注意を払うべきでしょう。
4 自身の持つ価値観を認識していなければ、相談者が抱える、価値観の違いから来る精神的な葛藤やストレスに気付くことはできないのではないでしょうか。しかし、自身の持つ価値観にこだわってその価値観を相談者に押し付けるようでは、相談者の精神的な苦痛を軽減させることはできません。相談者が苦しんでいる価値観の違いを認識したうえで、どの文化にも同じように価値があると考える(文化相対主義)姿勢が必要です。
したがって、正解は4になります。
☞超重要絶対暗記 《文化相対主義(カルチュラル・レラティビズム)》
⦿文化相対主義(カルチュラル・レラティビズム):文化には多様性があって、そこに優劣はないとする考え方。よって、他の文化の行動様式を自分の文化の基準で判断するのではなく、その文化の問題や機会などを考慮に入れて判断しなければならない。
⦿自文化中心主義(自民族中心主義、エスノセントリズム):自分の文化が最も優れているとする考え方。文化相対主義とは相反し、自分の文化の尺度で、他の文化を判断する立場。