2020年6月28日日曜日

2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ問題5の解説

問1 「ウォームアップ」の方法とその目的として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P210


赤本には、ウォーミングアップ(ウォームアップ)に関して、「出席状況」「雰囲気作り」「前回の復習」という記載しかされていませんが、これだけでもウォーミングアップが本格的に授業に入る前の段階であることが分かると思います。

選択肢1の「新出の語彙」や選択肢2の「目標の学習文型」はウォーミングアップの内容として適当ではありません。

また、ウォーミングアップは「雰囲気作り」でもあるため、選択肢3の「誤用を引き出」したり「明示的な訂正」や「注意」することも適当ではありません。

選択肢4の「復習」「練習」「緊張を和らげる」という内容はウォーミングアップとして適当だと言えます。


したがって、正解は4になります。


☞超重要絶対暗記 《ウォーミングアップのポイント》
⦿出席状況:その日の学習者やクラス全体の状況を把握し、スムーズに学習に入って行けるように、学習環境を快適な状態に整えること。
⦿雰囲気作り:挨拶や日常に関する簡単なやりとりなどで学習者をリラックスさせる。
⦿前回の復習:前回までの復習を兼ねたQ&Aやその日の学習内容に関連した話題の提供などにより、指導項目の導入に繋げていく。


なお、選択肢2に関しては、問題文を読むと「ウォームアップを行い」の後に、「文型導入に移る。続いて、反復練習拡張練習などの基本練習を行う」とあります。「目標の学習文型を使った文を復唱させ」ることは、基本練習である反復練習に当たります。よって、選択肢2はウォームアップの後の活動内容であり、ウォーミングアップの内容として適当ではないことが分かります。

💡解法のポイント
⦿問題文に答えやヒントが書いてあることが少なくありません。選択肢で迷ったら問題文に戻ってみることはとても有効です。




問2 「文型導入」を行う際の留意点として不適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚指導と支援〛P186


1 選択肢1の考え方、教師の姿勢は、「文型導入」だけに限ったことではありません。近年の外国語教育は、「やりとり」を通じて「共に学ぶ」ことが重視されており、教師には「教える」から「支援する」側面が強く求められます。よって、選択肢1の内容は適切と言えます。

2 選択肢1とは全く逆の内容と言えます。教師が一方的に答えを「教える」のではなく、学習者が「やりとり」を通じて、答えを推測し、気付きを得ながら「共に学ぶ」ことが大切なので、選択肢2の内容は不適切と言えます。

3 語彙の意味がわからなければ、文型の意味や機能を理解することも困難です。「文型導入」の際は既習語彙を使用し、新しい文型だけに集中できるようにすることが大切です。よって、選択肢3の内容は適切と言えます。

4 新しい文型を覚えても、生活の中で使えなければ意味がありません。選択肢4の内容の通り、学習者が実際の生活の中で遭遇する場面を想定し、使えるようになることが重要です。よって、選択肢4の内容は適当と言えます。


したがって、正解は2になります。




問3 「拡張練習」の例として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P212「表2-1-7 パターン・プラクティス」


1  不完全な文を完全な文にする練習を「完成練習」と言います。また、「~ます」の形から「~てもらいました」の形に変えるような練習は「変形練習」と言います。よって、選択肢1は「完成練習」と「変形練習」を合わせた練習と言えます。

2 教師の質問に答える形の練習の仕方を「応答練習」と言います。

3 「買ってくれました」という文に、教師が指示した目的語や主語、修飾語などを徐々に加えて文を長くしていく練習の仕方を「拡張練習(拡大練習)」と言います。

4 教師が言った文を「~てくれます」の形に変えているので、「変形練習」です。


したがって、正解は3になります。


☞超重要絶対暗記 《パターン・プラクティスの練習方法》
⦿模倣練習:モデルの文をそのまま繰り返す練習。
 例)教師「お茶を飲みます」→学習者「お茶を飲みます」
⦿変形練習:語句や文を指示された方法で変化させる練習。
 例)教師「お茶を飲みます」→学習者「お茶を飲みました」
⦿代入練習:文中の語句を入れ替える練習。
 例)教師「お茶を飲みます。コーヒー」→学習者「コーヒーを飲みます」
⦿拡張練習(拡大練習):文を徐々に長くしていく練習。
 例)①教師「飲みます」→学習者「飲みます」
         ②教師「お茶」→学習者「お茶を飲みます」
         ③教師「朝」→学習者「朝、お茶を飲みます」
⦿結合練習:複数の文を1つにまとめる練習。
 例)教師「お茶をいれました」「お茶を飲みました」→学習者「お茶をいれて、飲みました」
⦿完成練習:不完全な文を完全な文にする練習。
 例)教師「お茶を入れて・・・・」→学習者「お茶をいれて、飲みました」
⦿応答練習:指示された文型を使って質問に答える練習。
 例)教師「朝、何を飲みましたか?」→学習者「お茶を飲みました」


📡関連する過去問
2018年度(平成30年度) 試験Ⅰ問題6 問3
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/07/2018306.html





問4 「応用練習」を行う際の指導上の留意点として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚ロールプレイ〛P192、P223、〚情報差〛P192、P223


1 導入した文型だけで日常会話を成り立たせることは難しいので、「運用能力を高める」ための応用練習では、既習文型も組み合わせた一連の会話の(流れの)中で運用できるようにすることが大切です。よって、選択肢1の内容は適切と言えます。

2 「モデル会話を繰り返し復唱させ」るのは、反復練習であり基本練習です(問題文4-5行目)。「運用能力を高める」ための応用練習の指導内容として適切とは言えません。

3 「役割や場面を設定して行う活動」(=ロールプレイ)は、言語をどのように使うかという運用能力を身に付けるためには有効な練習方法とされ、コミュニケーションを重視した教授法である「コミュニカティブ・アプローチ」にはロールプレイが取り入れられています。

そもそも、「本物のやり取り」でなければダメなのであれば、教室の外に出て、実際に見知らぬ人に道を尋ねたり、家電量販店に行って店員と値段交渉するなどしなければならないことになってしまい現実的ではありません。よって、選択肢3の内容は適切とは言えません。

4 「情報差(インフォメーション・ギャップ)」とは以下の通りです。

(赤本P223からの抜粋)
情報差(インフォメーションギャップ)
 自分は知らないが相手は知っている、ないし相手は知らないが自分がしっていることを伝えたいときは、互いに情報差がある。

簡単に言うと、情報差とは、自分が知らない相手のこと、もしくは、相手が知らない自分のことです。たとえば、「〇〇についてどう思うか」などのように人の考えとか気持ちとか。

現実のコミュニケーションには「情報差」が存在しています。ですから言語の運用能力の向上のためには情報差を埋めるタスクが必要です。「コミュニカティブ・アプローチ」でロールプレイを取り入れているのは、ロールプレイが「情報差」を利用した活動だからです。


したがって、正解は1になります。


☞超重要絶対暗記 《情報差(インフォメーション・ギャップ)》
⦿情報差(インフォメーション・ギャップ):自分は知っているが、相手は知らない情報があるとき、情報差があるという。


☞超重要絶対暗記 《ロールプレイの重要要素》
モロウが挙げるロールプレイの重要要素は以下の通り。
⦿情報差(インフォメーション・ギャップ)
⦿選択権:言いたいことをどのように言うか(語彙、表現、機能など)を自分で決められること。
⦿反応




問5 授受表現の誤用の記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚授受表現〛P69~


授受表現」というのは、「あげる(やる)」「くれる」「もらう」を使った表現のことです。立場や視点の違いによって、適切な動詞が決まります。

授受表現の誤用というのは、3つの動詞の用法が理解できておらず、「あげる」と言うべきところを「くれる」と言ってしまったり、「もらう」と言うべきところを「くれる」と言ってしまうような間違いのことを言います。


で、正解は2ということですが、正直、私にはなぜ正解が2になるのか分かりません。


ヒューマンアカデミーやアルクなども選択肢2を正解としているため、私が間違っているんだとは思いますが・・・・誰か分かる人がいたら教えてください。


ちなみに、私は以下のような理由で正解は4だと考えています。


まず、選択肢1の「東京にもやっと春が来てもらった」を正しい文に直すとすれば、「東京にもやっと春がきてもらったきた」となるでしょう。授受表現を使った文に直すとすれば、「東京にもやっと春がきもらったくれた」となるでしょうか。しかし、このように直すと、発話者の言いたいこととはまったく違う内容になってしまうので適切な直し方とは言えないでしょう。

いずれにしても、授受動詞が補助動詞として使われる場合、恩恵の授受を表わし、ガ格ではなく二格に用いられる語が人間である必要があります。


(赤本P70からの抜粋)
授受動詞が補助動詞として使われる時は、テ形に使われる動詞の動作が厚意をもって二格の人に行われたことを表す。「あげる」と「くれる」の制約は単独で使われる場合と同じで、「~てくれる」の視点も二格にある。

よって、「ガ格に用いられる語が人間ではないことによる誤り」という選択肢1は、誤用の記述として適当ではありません。


正解とされている選択肢2について。
正しくは「先生にお土産をおあげました差し上げました」と言うべきだと思います。「あげました」を謙譲語にする際に、一般的な謙譲語の作り方のルールを適用したことによる誤りと言えます。しかし、これはあくまでも、謙譲語の作り方の間違いであって、授受表現の文型に関する誤用とは言えない、というのが私が選択肢2を不正解とした理由です。

選択肢3については、正しくは「先生、明日休ませていただませんか」となるでしょう。これは、許可を求める際に使役形を用いたことによる間違いであり、授受表現の誤用ではありません。


選択肢4について。
正しくは「タクシーを呼んだらすぐに来てもらったくれた」となるでしょう。よって、「もらう」と「くれる」の授受表現の誤用と言えます。この正しい文は、「(私が)タクシーを呼んだら、(タクシーが)すぐに来てくれた」というように、前件と後件で主語が異なる文です。しかし、学習者は、後件の主語も前件と同じ「私」と思ったから、後件の動詞を、受け手が主語になる「もらった」にしたものと考えられます。よって、「前件と後件の主語が異なることによる誤り」という選択肢4は、誤用の記述として適当だと考えられます。


したがって、正解は4だと思うのですが、なぜ4が間違いで2が正解になるのか分かる人がいたら教えてください。


📡関連する過去問 (授受表現)2018年度(平成30年度) 試験Ⅰ 問題3D (19)
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/07/2018303d.html

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