2020年7月19日日曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題4の解説

問1 「グローバルエラー」の例として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P281


第二言語学習者の誤用にはミステイクとエラーの2種類があります。
⦿ミステイク:疲労や不注意からくるその場限りの一時的な間違い
⦿エラー:学習者が繰り返しおこす知識としての誤り。

さらにエラーには2つの下位分類があります。
⦿グローバル・エラー:意味の理解が不可能で、コミュニケーションに支障を来す間違い
⦿ローカル・エラー:意味の理解が可能で、コミュニケーションに支障を来さない間違い


1 「それはいいと思います」は、発話意図の「それはいいと思います」という意味であることが理解できるので、ローカル・エラーと言えます。

2 「それは友達がもらった本です」は、発話意図の「それは友達にもらった本です」とは異なる内容になってしまい、表出した発話から発話意図を理解することができない間違いなので、グローバル・エラーと言えます。

3 「先週、温泉に行きます」は、発話意図の「先週、温泉に行きました」という意味であることが理解できるので、ローカル・エラーと言えます。

4 「これを見ってください」は、発話意図の「これを見てください」という意味であることが理解できるので、ローカル・エラーと言えます。


したがって、正解は2になります。


☞超重要絶対暗記 《ミステイクとエラー》
⦿ミステイク:疲労や不注意からくるその場限りの一時的な間違い。
⦿エラー:学習者が繰り返し起こす知識としての誤り。
 ・グローバルエラー:意味の理解が不可能で、コミュニケーションに支障を来すようなエラー
 ・ローカルエラー:意味の理解が可能で、コミュニケーションに支障を来さないエラー


📡関連する過去問
2019年度 試験Ⅰ 問題10 問1
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問2 「言語内の誤り」の例として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)〛P281


言語内の誤りとは、たとえば、「桜がとてもきれかった」などの間違いは、「美しかった」などイ形容詞の活用をナ形容詞に適用してしまっている間違いです。このように、日本語の文法を、日本語の中で間違って使用してしまっている誤用が言語内の誤りです。

一方、言語間の誤りとは、たとえば、英語母語話者の学習者が、目上の人に、人称代名詞の「彼/彼女」を使ったとします。英語では目上の人に「he/she」を使うことは特に問題ありませんが、日本では失礼にあたります。このように、外国語の文法や言い回し、言語習慣を日本語に持ち込んでしまったことによる誤用が言語間の誤りになります。


1 「面白いじゃない」は、ナ形容詞の否定形をイ形容詞に適用してしまっている間違いです。日本語の文法を、日本語の中で間違って使用してしまっている誤用なので、言語内の誤りだと判断できます。

2 「教えることができますか」は、英語のCan you teach me?をそのまま日本語にして使用したことによる誤用と考えられます。英語以外の外国語でも使用する表現かもしれませんが、日本語で「教えることができますか」という表現はしません。よって、選択肢2の例は英語と日本語の言語間の誤りだと判断できます。

3 日本語では、この場合「これ」ではなく「それ」を使います。英語では間違いでないことから、英語もしくは他の外国語と日本語の言語間の誤りだと判断できます。

4 日本語では、この場合「来たい」と表現します。英語では「I must come・・・・・」という言い方をするため、英語もしくは他の外国語と日本語の言語間の誤りだと判断できます。


したがって、正解は1になります。


なお、選択肢2~4のように、文法的に間違っているわけではないが不適切な表現を、プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)と言います。合わせて確認しておきましょう。


☞超重要絶対暗記 《プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)》
⦿プラグマティック・トランスファー(語用論的転移):文法的に間違っているわけではないが不適切な表現のこと。


📡関連する過去問
2019年度 試験Ⅲ 問題10 問5
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問3 「使い慣れない形式や自信のない形式を使わない」というようなストラテジーは何というかを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚コミュニケーション・ストラテジー〛P321


コミュニケーションを円滑に必要なのは、文法や語彙などの言語学的な能力だけではありません。たとえば、適切な語彙が浮かばない場合、それを別の言葉で言い換えたり、「あれ何て言うんだっけ?」って相手に援助を求めるなどの認知的な能力も大切です。

このような「話し手と聞き手の間で意味が共有されていないときに、その両者が意味にたどり着こうとするお互いの努力」のことを、タローンは「コミュニケーション・ストラテジー」と呼びました。


コミュニケーション・ストラテジーには次のような分類があります。


☞超重要絶対暗記 《コミュニケーション・ストラテジー》
コミュニケーション・ストラテジーには以下のものがある。
⦿回避:語彙力不足により表現できないものを表現しないこと。複雑な文法構造を使わずに、簡単な別の構造を使って表現すること。
⦿言い換え:ある語を似通った別の語で表現すること。適切な語を使わず、別の言い方で表現すること。
⦿母語使用あるいは意識的な転移:母語または他の言語による翻訳に依存すること。
⦿援助要求:学習者が母語話者に助けを求めたり、辞書を使ったりすること。
⦿ジェスチャー:身振り、手振りに頼ること。


問題となっている下線部C「使い慣れない形式や自信のない形式を使わない」のはコミュニケーション・ストラテジーの「回避」に当たります。


したがって、正解は2になります。


📡関連する過去問
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問4 学習者に言い直しを求める「フィードバック」を何と言うか選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚明示的フィードバック・暗示的フィードバック〛P229、〚インターアクション仮説〛P294,295


「フィードバック」という用語を見たら、「明示的フィードバック」と「暗示的フィードバック」が反射的に頭に浮かぶようにしておかなければなりません。それぐらい重要なワードです。これが第一段階。

第二段階は、暗示的フィードバックは「リキャスト」とも言うということ。リキャストも超重要ワードです。


☞超重要絶対暗記 《明示的フィードバックと暗示的フィードバック(リキャスト)》
⦿明示的フィードバック:学習者に間違いの存在をはっきり示すフィードバック。
⦿暗示的フィードバック:自然な応答の中でさりげなく訂正する方法。リキャストとも呼ばれる。


で、明示的フィードバックにはいろいろ種類(明示の仕方)があって、赤本P229には「これ、昨日買ったの辞書です」という発話に対するフィードバックとして以下の7種類の明示的フィードバックを列挙しています。


(以下、赤本P229からの引用)

①「間違ってますよ」/ポーズをおく/小首を傾げる:誤用の存在を知らせる。
②「これは昨日買った辞書です、が正しいです」:正解を言う
③「助詞が違いますよ」:誤用の箇所と性質を説明する
④「これ・・・・?昨日買った・・・・?」:誤用の部分の直前まで言う
⑤「これ、昨日買ったの辞書です?」:誤用をそのまま繰り返す
⑥「すみません、分かりません。もう一度言ってください」:再度の発話を要求する
⑦「これ、の後には『は』を使います。買った、の後には『の』は使いません」:誤用の原因を正解とともに説明する


1 「直接訂正」は、明示的フィードバックの⑦に当たるものだと思います。「直接訂正」に言い直しを求める意味合いはありませんので、選択肢1は、学習者に言い直しを求めるフィードバックとして適当ではありません。

2 「明確化要求」は、ロングインターアクション仮説の中で出てくる用語です。「相手の発話が不明確で理解できないときに、発言を明確にするよう要求する」ものであり、明示的フィードバックで言うところの⑥に当たるものです。よって、選択肢2は、学習者に言い直しを求めるフィードバックとして適当と言えます。


☞超重要絶対暗記 《インターアクション》⦿インターアクション:、言語を用いた他者とのやりとりのことで、近年では、言語習得はインターアクションを通じて、お互いに意味交渉することで促進されるという考え方が一般的となっている。会話の相手とのコミュニケーションが滞ったときに、お互いの意図が通じるよう工夫するやりとりには以下のようなものがる。

明確化要求:相手の発話が不明確で理解できないときに、発言を明確にするよう要求すること
確認チェック:相手の発話を自分が正しく理解したがどうかを確認すること
理解チェック:自分の発話を相手が正しく理解したがどうかを確認すること



3 「誘導」は、明示的フィードバックの④に当たるものだと思います。「誘導」に言い直しを求める意味合いはありませんので、選択肢3は、学習者に言い直しを求めるフィードバックとして適当ではありません。

4 「繰り返し」は、明示的フィードバックの⑤に当たるものだと思います。「繰り返し」に言い直しを求める意味合いはありませんので、選択肢4は、学習者に言い直しを求めるフィードバックとして適当ではありません。




問5 「発話に対する『口頭訂正フィードバック』」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚口頭表現の誤用訂正プロセス〛〚文字表現の誤用訂正プロセス〛P228


1 問題文に「どのような誤用であるかを見極めることが大切である」と記載してあるように、学習者がどのように表現したかったのか、その発話意図が確認できなければ正しいフィードバックは行えません。よって、選択肢1は、「発話に対する『口頭フィードバック』」に関する記述として適当ではありません。

2 赤本P228に記載してある通り、口頭表現の誤用訂正は、学習者に誤りだと口頭で知らせ、その場で訂正させ、定着練習させるものなので、明示的フィードバックが中心になります。よって、選択肢2は、「発話に対する『口頭フィードバック』」に関する記述として適当ではありません。

3 赤本P228に記載してある通り、文字表現の誤用訂正は、「直接的に誤用の脇に正しいものを表記」したり、「下線を引き、そこに符号やヒントを書く」ものです。口頭での訂正とは違い訂正の箇所や正しい表現を覚えておく必要がないため(書いてあるものを見ればいいため)、口頭訂正フィードバックの方が、ライティング・フィードバックより短期記憶にかかる認知的負荷は大きいです。よって、選択肢3の記述は適当ではありません。

4 発話に対するフィードバックには、漢字などの文字の間違いがないため、文法・表現など形式面へのフィードバックが主であるという選択4の記述は、「発話に対する『口頭フィードバック』」に関する記述として適当と言えます。


したがって、正解は4になります。

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