赤本には、細かい文法事項についてひとつひとつ載っているわけではないので、普段から日本語の意味や用法に関心をもつことが大切です。
(参照:松岡弘監修、庵功雄・高梨信乃・中西久美子・山田敏弘著『初級を教える人のための 日本語文法ハンドブック』(スリーエーネットワーク)P116-118)
「~ていく」の空間的用法:主体の移動
◆基本的に「(~て)いく」は話し手の発話時の位置から離れている遠心的方向性を持つ動作・出来事に対して使います。
◆「~ていく」は前に来る動詞の性質によっていくつかの用法に分けられます。
①「歩く、走る、泳ぐ、飛ぶ」などに「~ていく」が付いた「歩いていく」などの場合、「歩く」などは移動の様式を表します。
(例)道が混んでいるから、バスを降りて駅まで走っていった。
②「着る、(靴を)はく、(眼鏡を)かける」など、特に身に着けることを表す動詞の場合、「~ていく」はこれらの動作の結果の状態を伴って移動することを表します。「持っていく」「連れていく」もこの用法であると考えられます。
(例)今日のパーティーはどの服を着ていこうかしら。
③「食べる、買う」など一般的な動作を表す動詞の場合、「~ていく」は「食べる、買う」などの動作の後に生じた移動を表します。
(例)昨日はパーティーに行く途中でワインを買っていった。
「~ていく」の時間的用法
◆「増える、変わる、(雪が)解ける」など変化動詞と共に「~ていく」を用いると、段階的な意味が出てきます。
下線部Aの「持っていきます」の「~ていく」は、「持つ」という動作の結果を伴って移動することを表しています。(空間的用法の②)
1 「散っていく」の「~ていく」は、「散る」という変化の段階的な様子を表わす、時間的用法と判断できます。(時間的用法)
2 「増えていく」の「~ていく」は、「増える」という変化の段階的な様子を表わす、時間的用法と判断できます。(時間的用法)
3 「連れていく」の「~ていく」は、「連れる」という動作の結果を伴って移動することを表しています。(空間的用法の②)
4 「食べていく」の「~ていく」は、「食べる」という動作の後に生じた移動を表わしています。(空間的用法の③)
したがって、正解は3になります。
問2 「自己評価をする」ことによって期待される効果として不適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:P238中段(ポートフォリオの目的としては・・・・)
自己評価に関して、赤本にはあまり記載されていないので、国際交流基金『日本語教授法シリーズ』ひつじ書房からいくつか引用しておきます。
(『日本語教授法シリーズ10 中・上級を教える』P117)
<活動のふり返り>
学習者自身に主体的に学習に取り組ませるには、活動の後で、活動に自分がどう関わり、それによって何を得たか、学習の過程を学習者自身にふり返らせることが重要になります。
(『日本語教授法シリーズ12 学習を評価する』P13)
自己評価チェックリストは「指導目的」を設定することです。同時に、チェックリストの項目は、学習者にとっては「学習目的」です。コースの始めに学習者がこのような自己評価チェックリストを記入することで、教師と学習者が目的を共有することができます。学習者がこのようなチェックリストにそって、「いまの自分には何ができて、何ができないか」「目標を達成するためには何が必要か」で自分で考える習慣をつけることは非常に大事です。
(『日本語教授法シリーズ12 学習を評価する』P117)
ポートフォリオ評価を導入することで、学習者は(いつも評価されるのではなく)自分が評価の主体であることを学びます。ポートフォリオ評価を長く続けることで、学習者は自分の能力や学習を客観的に見られるようになり、学習の結果に自分で責任を持つ態度も生まれることと思います。つまり、ポートフォリオ評価は、学習者の成長を測る「ものさし」を学習者自身の中に育てることだと言えます。
1 自己評価で重要なのは、学習者が自分自身の学習をふり返ることであり、他者との比較ではありません。よって、「他者との達成度の違いを認識できる」とする選択肢1の内容は不適当と言えます。
2 学習者が自己評価を行い、活動をふり返ることで自分の苦手なところを自覚できれば、それを学習目標にすることができるでしょう。よって、選択肢2の内容は適当と言えます。
3 学習者が自己評価を行い、活動をふり返ることで自分ができるようになったことを自覚できれば、次の学習への意欲を高めることができるでしょう。よって、選択肢3の内容は適当と言えます。
4 学習者が自己評価を行い、どれだけ学習目標を達成できたか活動のふり返りを行うことで、目標に対する意識が高まり、目標に向かって頑張ることができるようになるでしょう。よって、選択肢4の内容は適当と言えます。
したがって、正解は1になります。
問3 「教案」作成上の留意点として不適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:P214~
1 授業時間内で授業目標が達成できるようにするためには、目標から逆算して、各活動の時間を分単位で決めておくことが大切です。赤本P215の「図2-1-12 教案の冒頭部分の例」の「経過時間」を見ても、「30秒」「2分」「5分」と分(もしくはそれ未満)の単位で作成されていることが確認できます。
2 活動が、授業目標とつながりのないものだったら、授業目標を設定する意味がありません。まず、授業目標を設定し、その目標を達成するためにはどのような活動にすればいいかを考えて、授業を組み立てることが重要です。
3 自由な発話といっても、授業の内容と全然関係のない話をしていたのでは授業目標の到達はできません。教師は、学習者から、授業内容・テーマに沿った自由な発話を引き出せるように、学習者の発話を事前に想定しておくことが必要です。したがって、「学習者の発話は事前に想定しないようにする」という選択肢3の内容は、教案作成上の留意点として不適当と言えます。
4 これまでの授業の学習内容と関連性を持たせ、既習知識に新しい知識を加えることにより、学習者が、自身の表現の幅の広がりを実感できるようにすることが大切だと思います。
したがって、正解は3になります。
問4 「こうした活動(<資料>の活動)では目標の達成が難しい」理由として適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:〚スキーマ(背景知識)〛P213「図2-1-11 中級レベル授業例」、P224「聞く技能の指導(受容)」、P274「2 言語理解の過程」、〚自動化〛P273欄外※9、〚インターアクション仮説〛P294
1 「スキーマ」とは、言語処理の方法のひとつであるトップダウン処理において、予測や推測を行う上で必要とされる、理解対象の周辺的な情報や背景知識のことを言います。
(赤本P224から抜粋)
聴解のプロセスには、(中略)背景知識や文脈・場面・挿絵などを手がかりに予測や推測をして仮説検証をする聞き方のトップダウン処理(中略)がある。
(赤本P274から抜粋)
トップダウン処理では、理解対象の周辺的な情報(文章のタイトルや挿絵、会話の相手の表情や場の状況など)から、予測や推測を行い、次の理解過程でその仮説検証を行い、それが正しかったかどうかの照合(マッチング)を行う。
会話の聴解であってもスキーマの活性化は可能ですので、選択肢1の内容は適当ではありません。
2 「~てきます」は課題の遂行には必要ない文型であるため、この授業では取り上げる必要はないと思います。授業内容とは関係のない事項を教えることは、学習者を混乱させる原因となるため、教える内容は授業目標を達成させるために必要な最低限度の事項にとどめることが望ましいと言えます。
3 「言語処理の自動化」に関して赤本には以下の記述があります。
(赤本P273から抜粋)
第二言語を流暢に使うために、記憶の中の情報を努力なしに思い出せるようにすること。
言語の自動化を促すためには、言語を実際に運用する必要があり(手続き的記憶)、モデル会話の記憶(宣言的記憶)では、言語処理の自動化は促進されません。よって、選択肢3の内容は適当ではありません。
4 「インターアクション」とは、“言語を用いた他者とのやりとり”のことで、近年では、言語習得はインターアクションを通じて促進されるという考え方が一般的です(ロングのインターアクション仮説)。したがって、発表のあとに、学習者同士でペアになって授業の振り返りを行うなど、やりとりの機会を多く作ることが重要と言えます。
したがって、正解は4になります。
☞超重要絶対暗記 《スキーマ(背景知識)》
⦿スキーマ:言語処理の方法のひとつであるトップダウン処理において、予測や推測を行う上で必要とされる、理解対象の周辺的な情報や背景知識のこと。
☞超重要絶対暗記 《言語処理の自動化》
⦿言語処理の自動化:第二言語を流暢に使うために、記憶の中の情報を努力なしに思い出せるようにすること。
☞超重要絶対暗記 《インターアクション》
⦿インターアクション:、言語を用いた他者とのやりとりのことで、近年では、言語習得はインターアクションを通じて、お互いに意味交渉することで促進されるという考え方が一般的となっている。
問5 「改善方法」を考える際の留意点として適当なものを選ぶ問題
1 授業がうまくいかない原因がどこにあるのか分からないのであれば、問題解決のための観点を一つに絞るべきではないと思います。考えられるあらゆる観点から検討することが必要です。
2 自分が取り組めないほど多くの課題を設定しても意味がありません。重要なことは量ではなく、重要性や緊急性がより高い課題を設定し優先的に取り組むことです。
3 学習者の多様化が進む近年において、すべての学習者に共通する改善・解決方法を見つけることは困難と言えます。社会や言語教育観はもとより、学習者のニーズやレディネス、学習者の人数等に合わせた解決を試みる必要があります。
4 問題がどこにあるのか特定できなければ適切な解決策を講じることはできません。よって、どこに問題があるのか具体的に考えることは解決方法を見つけるための第一歩と言えます。
したがって、正解は4になります。
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