2020年7月23日木曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題6の解説

問1 「帰納的アプローチ」に関する記述として適当なものを選ぶ問題


この問題は「帰納」という言葉の意味を問う問題です。設問では「文法指導における」とか「~的アプローチ」と書いてあるので、専門用語っぽく見えますが、あんまり関係ありません。「帰納」という日本語の意味が分かっていれば正答を選ぶことができます。


帰納とは、個々の事例から法則・命題を導き出すことです。

たとえば、

事例①:Aという黒い鳥がいます。Aは何の鳥か尋ねてみたらカラスでした。
事例②:Bという黒い鳥もいます。Bは何の鳥か尋ねてみたらBもカラスでした。
事例③:Cという黒い鳥もいます。Cも何の鳥か尋ねてみたらやっぱりカラスでした。

そうなると、「黒い鳥はみんなカラス」ということになるわけです。これが帰納です。


日本語教育で言えば、たとえば語彙や文型の説明をするときに、辞書的な意味を言うのではなく、その語彙や文型を使った例文をたくさん提示する。

そうすると、学習者は「あーー、この言葉はこーゆー意味なんだな」とか「この文型はこういう時に使うのか」ということが理解できるわけです。

これが「帰納的アプローチ」というものです。


選択肢を読んでみれば、これと同じことを言っているのが3であることが分かると思います。

したがって、正解は3になります。



なお、「帰納」とセットで覚えておきたいものに「演繹」がありますが、演繹は、原理や法則から、個別のものについて推論するものです。

たとえば、「黒い鳥はみんなカラス」という法則があるならば、

あそこに黒い鳥がいる→黒い鳥はカラスである→であれば、あの鳥は「カーカー」と鳴くはずだ

と推論できるわけです。

これが演繹という考え方です。


日本語教育で言えば、語彙の辞書的な意味を説明して、学習者にその語彙を使った例文を作らせるなどが、「演繹的アプローチ」と言えるでしょう。







問2 初級における媒介語の使用に関する記述として適当なものを選ぶ問題


媒介語は、目標言語以外の言語で、多くの場合、学習者の母語になると思います。学習者全員が英語を話せるということが分かっていれば英語も媒介語となりうるでしょう。


1 日本語の知識が少ない初級の学習者は、日本語の説明だけでは理解できないこともあるでしょう。日本語だけの使用に拘って一つの項目に時間をかけすぎると、授業の目標を達成できなくなることも考えられます。場合によって、媒介語を使用することは間違いではありません。

2 選択肢1のように、場合によっては媒介語を使用することは間違いではありませんが、分からない時、すぐ媒介語を使用するようになってしまうと目標言語の習得を遅らせることになってしまいます。媒介語の使用に依存する学習者を育てないように留意することは大切なことです。

3 よく使う表現こそ目標言語を使って、学習者に覚えさせる必要があるでしょう。

4 媒介語を使用すれば学習者の認知的負荷は軽減できるので、社会的・文化的背景の理解には有効であると思われます。


したがって、正解は3になります。




問3 オーディオ・リンガル・メソッドの「文型練習」を行う際の留意点として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚オーディオ・リンガル・メソッド〛P191


オーディオ・リンガル・メソッドは、語や文型を入れ替えて、繰り返し口頭練習し、習慣化させることによって覚えさせる教授法です。

代表的な練習方法にはパターン・プラクティス(文型練習)ミム・メム(mim-mem)練習ミニマル・ペアを用いた練習などがあります。


1 文型練習(パターン・プラクティス)は、目標とする文型を音声的、文法的に正確に操作する力をつけることを目的としています。そのため、最初に教師が学習者に対して目標とする文型を口頭で示し、正確な発音、アクセント、リズムを教えてから個別練習をする必要があります。よって、選択肢1の内容は適当と言えます。

2 文型練習(パターン・プラクティス)は、目標とする文型を音声的、文法的に正確に操作する力をつけることを目的としています。よって、選択肢2の内容は適当ではありません。

3 文型練習(パターン・プラクティス)は、オーディオ・リンガル・メソッドの代表的な練習方法です。オーディオ・リンガルは、音声(=オーディオ)・言葉(=リンガル)という名称が示す通り、耳で聞いて口に出す教授法です。書くドリル練習は行いません。よって、選択肢3の内容は適当ではありません。

4 選択肢1の内容の通り、誤って覚えないために最初に全体練習を行うことが重要です。全体練習をして目標とする文型の使い方、正確な発音、アクセント、リズムを覚えた後には、口頭練習で習慣化させるため、学習者同士でQ&Aを繰り返し練習を行うことが大切と言えます。よって、選択肢4の内容は適当とは言えません。


したがって、正解は1になります。









問4 パターン・プラクティスの「応答練習」を選ぶ問題


「応答練習」は読んで字のごとく、質問に応答する(答える)練習です。


1 まず教師が質問をして、その後に「はい」で答えるのか「いいえ」で答えるのかの指示だけを出しています。学習者はその指示にしたがって適切な答え方をしているので、「応答練習」と言えます。

2 まず教師が文を示し、その後に別の語を提示しています。学習者は教師が始めに示した文に、後で提示された別の語を代入して新しい文を作っているので、「代入練習」と言えます。

3 教師が言ったことを、学習者はそのまま繰り返してるので、「模倣練習」と言えます。

4 教師が言ったことを、学習者が否定形に変えているので、「変形練習」と言えます。


したがって、正解は1になります。









📡関連する過去問
2019年度 試験Ⅲ 問題5 問3
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/06/20195_28.html





問5 コミュニケーション能力の養成に最も効果的な練習方法を選ぶ問題


1 ラポートトークとは、相手の感情に働きかける話し方のようです。で、ラポートトークと対象的な話し方にリポートトークというものもあるようです。「ラポート・トーク」は、2019年度試験Ⅰ問題4の問2の選択肢にも出てきているので、Googleなどで検索しておきましょう。

2 シナリオ・プレイとは、劇やドラマのような台本・台詞を覚えてその役割を演じることです。ロールプレイなどと同様に、コミュニケーション能力の養成に効果的な練習方法です。

スリーエーネットワークのホームページにシナリオ・プレイに関する記事がありましたので、読んでおくと参考になると思います。
https://www.3anet.co.jp/np/info-detail/152/


3 フォローアップ・インタビューとは、フォローアップ・クエスチョンと同じものでしょうか。フォローアップ・クエスチョンであれば、相手が発した言葉に関する質問をすることで話を弾ませるための会話のテクニックになります。

たとえば、「サッカー観るのが好きなんだよね」という発話に対しては、「サッカーされてたんですか?」とか「好きな選手は誰ですか?」というフォローアップ・クエスチョンをすることで相手に興味を示すことができ、話が盛り上がるわけです。

で、結局選択肢3は、きっと練習方法ではない、ということなのではないかと思います。
 
4 ディクテーションは、教師または音声教材の音をそのまま書き取っていく、聞き取りの練習です。よって、コミュニケーション能力の養成に適した練習とは言えません。


したがって、正解は2になります。

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