2020年6月21日日曜日

2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題13の解説

問1 ハイムズのコミュニケーション理論に関する空欄補充問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚コミュニカティブ・コンピテンス〛P192、〚コミュニケーション能力〛P319~322


この問題は超重要かつ基本的なことなので、選択肢を見た瞬間に2の「伝達能力」を選べるようにしておきたいです。


赤本P319~322の「言語コミュニケーション」で言っていることは、要するに、語彙や文法だけでは円滑なコミュニケーションを図ることはできませんよ、ということです。


(赤本P319からの抜粋)
ハイムズは伝達能力コミュニカティブ・コンピテンス、いわゆるコミュニケーション能力)を提唱し、コミュニケーションには、正しい文を組み立てるだけではなく、いつ、どこで、誰にその正しい文を使ったらよいかという知識が不可欠であることを主張した。

ハイムズコミュニカティブ・コンピテンスについて
(赤本P192からの抜粋)
言語習得には言語形式に関わる知識だけでなく、言語をどのように使うかという言語運用能力を身に付けることが不可欠だという理論。


したがって、正解は2になります。


☞超重要絶対暗記 《伝達能力(コミュニカティブ・コンピテンス)》
⦿伝達能力(コミュニカティブ・コンピテンス):社会言語学者のハイムズは、言語能力には、言語形式に関わる知識だけでなく実際にどのように使うかという言語運用能力も含まれるとし、その総体を伝達能力(コミュニカティブ・コンピテンス)とした。


また、カナル&スウェインによる伝達能力の4領域も合わせて覚えてしまいましょう。

☞超重要絶対暗記 《カナル&スウェインによる伝達能力の4領域》
⦿カナル&スウェインは、伝達能力は文法能力、社会言語学的能力、ストラテジー能力、談話能力から成っているとした。
文法能力:文法、語彙、音声、表記など。
社会言語学的能力:相手や時と状況によって言い方を変えるなど、社会習慣に基づいて言語を使用できる能力。
ストラテジー能力:たとえば、言葉を忘れたときにどうやって対処するとか、自分が言いたいことが相手に伝わらないときでもコミュニケーションを終わらせないためにどうすればいいかといった、コミュニケーションを円滑に行うために必要な能力。
談話能力:会話の切り出し方や会話の終わらせ方、間のつなぎ方といった会話を円滑に進めていくために必要な能力。




問2 「詩的(poetic)機能」の例として不適当なものを選ぶ問題


ヤコブソンコミュニケーションの詩的機能について、赤本には記載されていないので推測するしかありません。


問題文の内容はコミュニケーションについてです。


選択肢を見てみると、しり取りしゃれ早口言葉は言葉遊びというもので複数人で楽しむものです。しり取りはボキャブラリーの量を競う言葉のキャッチボールのようなものだし、しゃれは相手を笑わせたり楽しませるものだし、早口言葉も言えるかどうか披露し合ったり競ったりするものです。しかし、独り言だけ相手の有無に関わらず一人でブツブツ、またはボソッとつぶやくことであり、コミュニケーションの要素がまったくありません。


したがって、正解は3になります。


ちなみに、ヤコブソンの詩的機能について調べてみると、「具体的な内容を伝達することよりも、メッセージそのもの(音の響き、リズム、形態、統辞、語彙など)に着目した機能」で、言葉遊びや俳句、ラップなどを指すようです。

(参考)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/056/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/03/07/1367879_3.pdf




問3 ブラウン&ユール「交渉会話」の例として適当なものを選ぶ問題


ブラウン&ユールの「交渉会話」と「交流会話」については赤本には載っていませんが、それを知らなかったとしても、漢字の意味から「交渉会話」がどのような会話なのか推測することはできるし、正解を選ぶこともできる問題だと思います。


「交渉会話」を文字通り、“交渉のための会話”と捉えれば・・・・


正解は2になります。


選択肢1、3、4はただ質問してるだけで交渉とは言えません。


それに対して、選択肢2は、食事に誘っている、つまり、一緒にご飯を食べに行くことを交渉している会話と捉えることができます。



なお、「交渉会話」と「交流会話」は、以下のような会話をいいます。

・交渉会話:分からないことを尋ねたり、何かを依頼したり、勧誘したり、交渉したり、何らかの目的を成し遂げるためにする会話。
・交流会話:話すこと自体に意義がある会話。日常の雑談など。


(参考)
http://www.arts.chula.ac.th/~east/japanese/houkokusyo/houkokusyo_20.pdf#search=%27%E4%BA%A4%E6%B8%89%E4%BC%9A%E8%A9%B1+%E4%BA%A4%E6%B5%81%E4%BC%9A%E8%A9%B1+%E5%B0%BE%E5%B4%8E%E6%98%8E%E4%BA%BA%27




問4 「スピーチレベルシフト」に関して、基本的に普通体が用いられている会話の中で丁寧体にシフトしたときの効果の例として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚待遇表現〛P347


このような問題は、具体的な例を挙げて考えてみるのがいいと思います。


1 たとえば「気にしないで」よりも「気にしないでください」の方がよそよそしさが感じられます。また、「気にしないで」よりも「気にしないでください」の方が怒りを表わすことができると思います。「勝手にしてください」や「ほっといてください」なども丁寧体で怒りが表されている分かりやすい例だと思います。よって、選択肢1は適当そうです。

2 たとえば「そうだね」と「そうですね」を比べてみると、「そうですね」の方が強い共感している示しているわけではないことが分かると思います。「おれもそう思う」と「私もそう思います」で考えてみても、丁寧体の方が強い共感を示しているわけではないことが分かります。よって、選択肢2は適当ではありません。

3 たとえば「マジで?」と「本当ですか?」で考えて見れば、一時的に会話を和らげるのは、丁寧体ではなく普通体の方であることが分かると思います。「そうだね」と「そうですね」や「いいね!」と「いいですね!」でも同様だと思います。よって、選択肢3は適当ではありません。

4 そもそも「丁寧語」とは相手に対して丁寧に述べる表現方法なので、「話し手自身に向けた発話」ではありません。よって、選択肢4は適当ではありません。


したがって、正解は1になります。


なお、待遇表現に関して、赤本には以下のように記載されていますので、確認しておきましょう。


(赤本P347からの抜粋)
敬語(尊敬語・謙譲語・丁寧語)は、年齢や地位の上下といった“目上/目下”という上下関係によって使い分けられるが、これに加え、“親しい/親しくない”といった親疎関係も関わってくる。(中略)さらに、社内では上司に対して尊敬語を使う(例:山田部長はいらっしゃいません)が、社外の人に対しては同じ事柄を表わすのに謙譲語を使う(例:山田はおりません)ことから、“身内/身内以外”といったウチとソトの違いも敬語の使用に関わってくる。




問5 「フィラー」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚フィラー〛P144中段欄外※45、P320下段欄外※10、〚ターン・イールディング〛P144、〚プロミネンス〛P434、〚エンブレム〛P318


「フィラー」は、会話の中で、間を埋めるために発せられる言葉です。具体的な例としては、「えーと」「あのー」「そうだなー」「なんていうか」などがあります。


1 フィラーは婉曲的に表現することではありません。「聞き手に発話の機会を与えたりする」のは、ターン・イールディング(話の順番譲り)です。よって、適当ではありません。

2 フィラーは発音を際立たせたり、強弱をつけることではありません。選択肢2の説明はプロミネンスについてのものだと思います。

3 フィラーがもたらす効果についての記述です。

4 フィラーは、話を聞いていることや理解を示すものではありません。選択肢4の説明は相槌、または、ノンバ―バール・コミュニケーション(非言語行動)エンブレムなどについてのものだと思われます。


したがって、正解は3になります。



☞超重要絶対暗記 《フィラー》
⦿フィラー:会話の切り出しや、間を埋めるために発せられる語。「えー」「あのー」「うーん」など。


☞超重要絶対暗記 《ターン・イールディング》
⦿ターン・イールディング:話し手が聞き手に発話の順番を譲ること。話の順番譲り。


☞超重要絶対暗記 《プロミネンス》
⦿プロミネンス:文中の特定の部分を他の部分よりも際立たせて伝えるために、その部分を他の部分よりも強く発音したり弱く発音したり、話すスピードを上げたり落としたりすること。

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