2020年6月18日木曜日

2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題10の解説

問1 エラーとミステイクの説明の組み合わせとして適当なものを選ぶ問題 

📖赤本(第4版)関連箇所:P281


ミステイクとエラー、さらにエラーの下位分類であるグローバル・エラーとローカル・エラーは、超重要ワードなので、もし、それらの違いをきちんと理解できていないのであれば、このタイミングで完璧に理解して覚えてしまいましょう。


☞超重要絶対暗記 《ミステイクとエラー》
⦿ミステイク:疲労や不注意からくるその場限りの一時的な間違い。
⦿エラー:学習者が繰り返し起こす知識としての誤り。
 ・グローバルエラー:意味の理解が不可能で、コミュニケーションに支障を来すようなエラー
 ・ローカルエラー:意味の理解が可能で、コミュニケーションに支障を来さないエラー
 

正解は2になります。


ちなみに選択肢1はエラーとミステイクの説明が逆、選択肢3、4の説明は、エラーの下位分類であるグローバル・エラーローカル・エラーの説明です。


📡関連する過去問
2018年度(平成30年度) 試験Ⅰ 問題4 問1
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/07/2018304.html




問2 「第二言語学習者の正用と誤用を繰り返しながら学習者の言語が変化している現象」に関する空欄補充問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚中間言語〛P282、〚習得順序〛P283


「中間言語」は超重要ワードで、第二言語習得に関する問題の選択肢の中に「中間言語」というキーワードを見つけたら、即マークシートを塗りつぶしてもいいぐらい重要なキーワードだと思います。


☞超重要絶対暗記 《中間言語》
⦿中間言語:セリンカーによって唱えられた概念。第二言語学習者の発展途上にある独自の言語体系のことで、学習者のその時点での言語能力を指す。目標言語と第一言語の間に位置し、目標言語に近付いていくと考えられる。


したがって、正解は3になります。


では、中間言語を知らないと解けない問題かというと、実はそんなこともありません。


💡解法のポイント

⦿まず選択肢1ですが、「定着化」は漢字が表すとおり「定まる」ことです。「可変性」(=変わること)とは真逆の意味の「定着化」を空欄に入れると、矛盾した文になってしまいます。「固いのに柔らかい」とか「大きいのに小さい」みたいな。よって、選択肢1は真っ先に消去することができます。

では残る3つの選択肢のうちどれか?

実は、空欄を含む一文は、前半と後半、同じことを繰り返しています。


(前半部)「学習者の言語」が「変化」
             ↓        ↓
(後半部)「    (ア)   」に「可変性」


「変化」に対応するのが「可変性」です。では「学習者の言語」に対応するのは?

「中間言語」しかありませんよね。

選択肢だけ見れば、どれだろう?って非常に迷う問題ですが、論理的に考えてみれば、選択肢2の「--順序」とか4の「--概念」とか、そんな話してないよってツッコミたくなるような的外れの選択肢であることが分かると思います。


ちなみに、
1 「定着化」とは、(言葉の意味通り)知識が定着すること。
2 「習得順序」とは、文法項目を習得していく順序のこと。
4 「素朴概念」とは、教員養成系大学教員松﨑丈氏によると以下の通りです。
素朴概念は、人が自身の日常経験にもとづいて得る概念のことです。日常生活の中で自分なりに考えて得ていくものなのですが、科学的に十分ではなかったり誤りを含んだ状態で概念を形成していることが多いのです。

(参考)素朴概念と科学的概念の話。|松﨑 丈|note




問3 「精緻化リハーサル」の例として不適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P273


リハーサルは、インプットした情報を記憶するために行う事のことで、精緻化リハーサル維持リハーサルの2つに分類されます。

(赤本P273からの抜粋)
精緻化リハーサル・・・情報をイメージ化したり、既有知識と関連付けたりする。
維持リハーサル・・・忘れないように声を出したり、心の中で何度も復唱したりする(主にワーキングメモリへの転送に使用)。

1 何度も声に出して繰り返すのは維持リハーサルです。漢字や英語のスペルを覚えるために何度も繰り返し書くことなども維持リハーサルになります。

2 母語に対応する語(=既有知識)と関連付けるのは精緻化リハーサルです。

3 文を作成することも既有知識と関連付けにあたるので精緻化リハーサルです。

4 類義語のような他の知識と関連付けるのも精緻化リハーサルです。


したがって、正解は1になります。


💡解法のヒント
この問題は、精緻化リハーサルと維持リハーサルのことをきちんと理解していないと難しいかもしれませんが、問題文に「維持リハーサルよりも精緻化リハーサルのほうが効果的・・・」とあるので、選択肢の中の、ひとつだけ精緻化リハーサルとして相応しくないものは維持リハーサルであろうということは推測することができます。

であれば、記憶するうえで、最も効果的でなさそうな選択肢を選べば、精緻化リハーサルの意味が分からなくても正解できるかもしれません。


☞超重要絶対暗記 《精緻化リハーサルと維持リハーサル》
⦿精緻化リハーサル:使用する状況をイメージして理解を深めたり、既有知識と関連付けて記憶すること。
⦿維持リハーサル:声に出して繰り返したり、心の中で復唱して忘れないようにすること。




問4 「ビリーフ」の説明として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚ビリーフ〛P289中段「③学習成果の個人差は・・・・」、〚ステレオタイプ〛P248、〚ラポール〛P255、〚学習スタイル〛P287


ビリーフについては、赤本P289に以下のような記述があります。
③学習成果の個人差は、言語学習ストラテジーだけではなく、学習者の持つ信条(ビリーフ)、感情、内発的動機付けによってもたらされる。

読み飛ばしてしまってもおかしくないぐらいにサラーッとしか書かれていませんが、めちゃくちゃ重要なキーワードです。確実に押さえておきましょう。


つまり、ビリーフは「何をいい/好きだと思い、何を悪い/嫌いだと思うか」などの人が抱いている信条・確信のことなので、

正解は3です。


もし、「ビリーフ」を知らなかったとしても、

選択肢1については、問題文の「ビリーフ」の箇所に選択肢1の内容を当てはめてみれば、「言語学習には、その使用者に対して形成されたイメージが関わってくる」とか、「言語学習には、文化に対して形成されたイメージが関わってくる」とか意味が通じないので消去できると思いますし、

選択肢2については、「対話者」とか「相互の信頼関係」とか、会話とかコミュニケーションの話をし
ているわけではないので消去できると思うので、

2択にまでは絞り込むことができると思います。
 

ちなみに、それぞれの選択肢の内容は、
1 「ステレオタイプ」の説明だと思います。
2 「ラポール」の説明だと思います。
4 「認知スタイル」の説明だと思います。


☞超重要絶対暗記 《ビリーフ》
⦿ビリーフ:信念。言語習得に関して、どのようにすれば言語が習得できるようになるか、言語学習はこうあるべきといった個人的な考え方。


☞超重要絶対暗記 《ステレオタイプ》
⦿ステレオタイプ:あるカテゴリーに属するものに対して固定的なイメージを持つこと。マイナスイメージのステレオタイプは差別や偏見につながるので注意が必要。


☞超重要絶対暗記 《ラポール》
⦿ラポール:人間関係において必要とされる相互の信頼。たとえば「心が通い合っている」「どんなことでも打ち明けられる」といった関係。意思疎通を図るうえでの土台ともいえる。



なお、ビリーフに関して、インターネットで検索すれば、カウンセリングや自己啓発関連でもたくさんヒットすると思いますので、ひとつ紹介しておきます。

(参考)ビリーフとは「最高の人生」、「望んでいる結果」を生みだす鍵




問5 「情意フィルター仮説」の説明として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P294


情意フィルター仮説とは、クラッシェンモニター・モデルを構成する5つの仮説のなかの1つで、学習者が持つ言語に対する自信や不安などの心理的な要因でインプットの量が変わるとする説ですので、

正解は4です。


しかし、この問題も問題文に答えが書いてあるようなものなので、冷静になって考えれば「情意フィルター仮説」を知らなくても、正解を選ぶことができると思います。


💡解法のポイント

⦿(問題文)「情意フィルター仮説で指摘されているように」の後が答えです。
つまり、「学習者の情意面(=感情、気持ち)が言語の学習や習得に影響する」と同じことが書かれた選択肢を探せばいいわけです。


1 前半の「自尊心や強い自信」は「学習者の情意面」に合致した内容といえますが、後半の「他者との関係構築」は「言語の学習や習得」とはまったく合致した内容ではありません。

2 前半の「発話者に対する感情や評価」、後半の「発話意図の理解や解釈」と、「発話」に関する
内容なので、問題文の第二言語学習とはまったく関係ない内容です。

3 微妙な選択肢ですね。「失敗を恐れない行動力や意欲」は内容的に「学習者の情意面」に合致しているかもしれませんが、「言語使用を増やす」や「正確さへの注意」が「言語の学習や習得に影響する」に合致した内容かどうか。この選択肢を選ぶかどうかは選択肢4次第といったところになるでしょう。

4 「不安や恐れのない状態は言語習得を促進する」も「不安のある状態は「習得を妨げる」も、「学習者の情意面が言語の学習や習得に影響する」という内容に完全に合致したものになっています。


したがって、「情意フィルター」という言葉を知らなくても、論理的に正解を導き出すことができるというわけです。


☞超重要絶対暗記 《情意フィルター仮説》
⦿情意フィルター仮説:クラッシェンが提唱した第二言語習得理論のひとつ。学習者の言語に対する動機や態度、自信、不安などがフィルターとなってインプットを妨げ、習得の邪魔をするという説。


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