2020年8月3日月曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題9の解説

問1 「適性処遇交互作用」の説明として最も適当なものを選ぶ問題


こういう問題が文脈から解く典型的な問題です。

よく日本語教育能力検定試験問題を解説したもので、「適性処遇交互作用」の意味を説明して、だから答えは3というような説明をしているものが数多く見受けられますが、

この問題が、赤本にも出てこない「適性処遇交互作用」という用語を知っていないと解けない問題だとしたら、何を勉強すればいいのでしょう?どこでこの用語のことを知ることができるのでしょう?


日本語教育能力検定試験はただ単に知識の量を問うものではないので、こういった頻出度の少ない難しい用語については、その用語を知らなくても文脈から解けるようにできているんです。


では解説していきます。


問われている下線部A「適性処遇交互作用」の文は、「しかし」という逆説で前の文から接続されています。

「(外国語学習に必要な認知能力を調べる)言語適性の研究は、学習の成否を予見することを目的として始まった」けど、今は違うという、という文脈です。

で、どう変わったかというと、

「適性処遇交互作用の観点を踏まえ、習得過程と適性との関わりという視点で研究が進んでいる」。


つまり「適性処遇交互作用の観点」=「習得過程と適性との関わりという視点」ということです。

「習得過程」は、学習者がどのように習得していくかという学習方法(教授方法)のことで、
「適性」は、学習者に合っているかどうかということなので、


その内容に合致した選択肢は、「学習者の適性に合った教授法で指導を行うと、より高い指導効果が期待できる」(選択肢3)ということになります。


この問題文は「第二言語習得の成否に関わる要因」、つまり、第二言語の習得が上手くいくかいかないかの要因について述べているので、選択肢1,2の「学習者の適性が変化する」というのは文脈とはまったく関係ない内容ということになります。

選択肢4については、「『習得過程』と『適性との関わり』」(問題文3行目)というのは、その勉強の仕方/教え方が学習者に合っているかということであり、「学習者の習得状況に合った指導」という意味ではありません。


したがって、正解は3になります。




問2 「認知スタイル」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚学習スタイル〛P287-288


選択肢1と2の「場依存型」と「場独立型」については、赤本にも以下のように記載してあります。

(赤本P288からの抜粋)
場独立型の学習者は、個々の要素をそれぞれ独立したものとして捉えることが得意なため、文法学習などの形式中心の学習に優れていると考えられる。対して、場依存型の学習者は、個々の要素を周囲のものとの関連で捉えようとする傾向があるため、コミュニケーションの領域で能力を発揮するのではないかと言われている。



このことから、選択肢1と2の記述は互いに逆で、1が「場独立型」で、2が「場依存型」の説明であることが分かります。


選択肢3と4の「順序型」と「全体型」については、知っていないとどちらが正解か判断することができませんが、不幸にも、赤本には載っていません。

落としてもいい3割(60問)のうちの1問だと思って割り切っていきましょう。


以下の論文(東京未来大学の「子どもの認知能力と‐」)によると、https://www.tokyomirai.ac.jp/research_report/essay/pdf/3-4.pdf#search=%27%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%AB+%E9%A0%86%E5%BA%8F%E5%9E%8B%27 >  


順序型(継次処理のタイプ)とは、一つ一つ順序立てて情報を処理するタイプで、
全体型(同時処理のタイプ)とは、全体を一度に見渡せる形で情報を処理するタイプ

とのことです。

選択肢3の記述は、上記の論文の説明とは異なる内容であるため、適当とは言えません。
一方、選択肢4の記述は、同論文と合致した内容であるため、適当と判断できます。


したがって、正解は4になります。




問3 「学習ストラテジー」の直接ストラテジーの例として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚学習ストラテジー〛P288-289


学習ストラテジーについては、赤本にバッチリ出てくる重要事項ですので、この問題は確実に正解しておきたいところです。


(言語)学習ストラテジーとは、赤本P288の説明にある通り、「学習をより易しく、より早く、より楽しく、より自主的に、より効果的に、かつ新しい状況に素早く対処するために学習者がとる具体的な行動」です。

学習ストラテジーには、学習に直接関わる直接ストラテジーと、学習の環境を整えたりモチベーションを上げるなど学習を間接的に支える間接ストラテジーの2つに分かれ、それぞれが持つ3つの下位分類は以下の通りです。





1 友達を作ったり、サークルを作ったりして一緒に勉強するのは、間接ストラテジーの「社会的ストラテジー」です。

2 学習計画の立案や自己評価によって、学習を自ら管理するのは、間接ストラテジーの「メタ認知的ストラテジー」です。

3 習ったことをまとめたり、繰り返し練習したりするのは、直接ストラテジーの「記憶ストラテジー」です。

4 自分を励ましたり、勇気づけたりして不安を抑えるのは、間接ストラテジーの「情意ストラテジー」です。


したがって、正解は3になります。




問4 「不安」を軽減するための教室作りの方法として適当なものを選ぶ問題


この問題は選択肢をひとつずつ吟味していけば分かるのではないかと思います。


1 競争心を刺激することは、周囲を勝負する競争相手(ライバルや敵)と見なすことになるので、不安が軽減するどころか、より緊張した状況になるのではないでしょうか。よって、選択肢1は、不安を軽減するための教室作りの方法として不適当だと思われます。

2 成功体験を積ませることは、学習者の自信に繋がるので、不安を軽減するための教室作りの方法として適当と考えられます。

3 学習者が不安の兆候を認識できたり、どのようなときに不安になるのか意識することができれば、ある程度は不安に備えたり対処できると思いますので、選択肢3は、不安を軽減するための教室作りの方法として適当と思われます。

4 選択肢4の内容は選択肢2の内容とほぼ同じで、学習者がよく理解できていて、答えがはっきりしている項目をテストすることは、学習者の自信に繋がるので、不安を軽減することができると思われます。 


したがって、正解は1になります。




問5 「内発的動機づけ」を促すものとして適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚内発的動機付けと外発的動機付け〛P285-286


内発的動機付けとは、学習者の内側から湧き起ってくる、おもしろい、興味があるといった学習そのものが動機になることで、

外発的動機付けとは、学習そのものではなく、報酬を得るためなどの外部要因が動機になることです。


1 外部(他者)から勧められているわけですから、外発的動機付けになります。
2 学習そのものではなく、試験合格という外部要因によるものなので、外発的動機付けになります。
3 学習そのものではなく、外部からの利益が動機になっているので、外発的動機付けになります。
4 クラスメートと協働的に学ぶことは、外部(他者)から勧めれたわけでもなく、外部から受ける利益によるものでもなく、学ぶことそのものが動機となっているので、内部的動機付けになります。


したがって、正解は4になります。



内発的動機付けが学習の効果に期待できるという話は、なにも日本語学習者に限った話ではありません。日本語教育能力検定試験の勉強にも言えることです。

合格への近道は、検定の勉強に興味を持つこと、楽しいと思うこと、つまり内発的動機付けを高めらることに他ならないわけです。




2020年7月30日木曜日

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2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題8の解説

問1 「文化化」の説明として適当なものを選ぶ問題


この問題は文脈から解くことができる問題です。

まず問題文の1文目で、「異文化接触」の説明をしています。
「異文化接触とは、ある程度の文化化を経た人が、他の集団やその成員と行う相互作用のことである」と。


続く2、3文目では、異文化接触によって引き起こされる「カルチャー・ショック」の説明をしています。
「人は通常、自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を意識することは少ない。そのため、異文化に接触したときには、カルチャー・ショックという心理的反応を経験する人が多い」


2、3文目を、もう少し言葉を補いながら詳しく読み解くと以下のようになります。

「人は通常、自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を意識することは少ない。しかし、異文化に接触すると、自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を意識するそのため、カルチャー・ショックという心理的反応を経験する人が多い」


自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を意識することによりカルチャー・ショックを経験する、ということは、

カルチャー・ショックを経験する人は、自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を身に付けた人ということが分かります。


もうお気づきでしょうか?


実は、1文目と2,3文目は対応した内容になっているわけです。


つまり、「自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を身に付ける」ことが「文化化」に対応する内容であり、

これと同じことを言っている選択肢は、4以外にはありません。

したがって、正解は4になります。





問2 「カルチャー・ショック」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P248-250


カルチャー・ショックとは、異文化と接触したとき、自分化との違いに衝撃を受けることをいいます。衝撃を受けたあとは、以下の4つの段階を経て、新しい習慣が受け入れられるようになるとされています。


⦿ハネムーン期:異文化接触の初期段階。景色や食べ物など何もかもが新鮮で、高い期待感と希望に満ち溢れている心理状態の時期。
⦿ショック期:ハネムーン期の興奮状態がおさまってくると、新しい文化や習慣に敵対心を持ったり、期待感が失望感に変わり焦燥感などにかられる状態の時期。
⦿回復期:ショック期の落ち込みを克服し、新しい文化や習慣に順応していく時期。
⦿安定期:新しい文化や習慣を受け入れ、精神的にも安定し異文化理解が進む時期。


1 精神的に高揚した状態は、カルチャー・ショックの初期段階であるハネムーン期だけです。ショック期は落胆・消沈した状態で、回復期はショック期の落胆・消沈した状態から徐々に立ち直っている状態で、安定期は精神的に安定した状態なので、選択肢1の記述は適当ではありません。

2 精神的に落ち込んでいるショック期などは、ストレスから食欲がなくなったり、眠れなくなったり、お腹を下したり、円形脱毛症になったり、何かしらのアレルギーが発症したりすることも考えられるでしょう。よって、選択肢2の記述は適当だと考えられます。

3 自国でも、地域が異なれば方言もありますし、気候が違えば生活様式や食習慣も異なります。自国内でもあっても地域によって様々な文化がありますので、カルチャー・ショックを経験することはあるでしょう。よって、選択肢3の記述は適当ではありません。

4 カルチャー・ショックは4つの段階があることから分かる通り、瞬間的な心理的反応ではありません。よって、選択肢4の記述は適当ではありません。









問3 「Wカーブ」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P249


カルチャー・ショックの「Uカーブ」とは、ハネムーン期、ショック期、回復期、安定期における心理的適応度をグラフで表わすとU字を描くというもので、U字曲線とも言うものです。

「Wカーブ」というのは、異文化の生活に慣れた後、自文化の生活に戻ると、自文化に対して、異文化に接触したときと同様のカルチャー・ショックを経験することがあります。これはリエントリー・ショックまたは逆カルチャー・ショックと言われるもので、

先のUカーブとリエントリー・ショックによるUカーブを合わせると、W字の形状になるので、これをWカーブまたはW字曲線と言います。







1 たとえば、海外での生活を経験したことで、「日本ってこんなに住みにくい/生活しにくい国だったの!?」ってショックを受けることも少ないのではないでしょうか。サラリーマンなどで海外駐在などをした結果、会社を辞めて駐在先の国に移住してしまう人も少なくありませんが、(駐在から)帰国後のショックが大きかった人が、そうなる可能性が高いのではないでしょうか。

2 異文化でショックを受け、回復する前に帰国しさらにショックを受ける・・・・これは「Wカーブ」というより「Wショック」でしょう(※「Wショック」という語が正式な用語としてあるかどうかは知りません)。多分、異文化でショックを受け、異文化に馴染む前に帰国するのであれば、「日本に帰ってこられてよかった」となるわけで、さらにショックを受けるということにはならないでしょう。

3 「Uカーブ」や「Wカーブ」は、周囲との接触の度合いを示したものではありません。

4 「異文化から帰国した後の適応の段階を示したもの」は、リエントリ・ショックが表すUカーブであって、Wカーブではありません。


したがって、正解は1になります。






問4 「文化変容(acculturation)」の一つのタイプである「分離(separation)」の説明として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P327


ベリー(J.W.Berry)によって分類された、異文化接触によって起こる個人レベルの文化変容(acculturation)の4つのタイプは、以下の通りです。






1 変化が小さいのは、自文化的アイデンティティを保持する「統合」と「離脱(分離)」で、そのうち、自文化に閉じこもっている状態なのは、周囲と良好な関係を築かない「離脱(分離)」なので、選択肢1は「分離(separation)」の説明として適当と言えます。

2 文化的・心理的に異文化の受容が最も大きい状態なのは、自文化的アイデンティティを捨て去って異文化に同調し、周囲との良好な関係を築く「同化」です。

3 自文化と異文化の間で葛藤している状態なのは、自文化的アイデンティティを保持するわけでもなく、相手と良好な関係を築くわけでもない「境界化(周辺化)」です。

4 自文化を保つのは「統合」と「離脱(分離)」で、そのうち異文化を受入ている状態なのは周囲と良好な関係を築くことができる「統合」です。


したがって、正解は1になります。




問5 「ソーシャルサポート」に関する記述として不適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P255


ソーシャル・サポートとは、社会の中で周りの人々から受ける物質的、心理的支援のことで、次の4つに分類することができます。

⦿道具的サポート:学習者に対してテキストや筆記用具を提供するなどの物質的な援助のこと。
⦿情緒的サポート:悩みを聞いてあげたり、勇気づけてあげたりするなどの感情面での解決を助けてあげること。
⦿情報的サポート:問題解決のために必要な情報やアドバイスを提供すること。
⦿評価的サポート:相手に対する肯定的な評価を与えて励ますこと。


1 たとえば、学習者が道具的サポートを求めているのに、情緒的サポートを与えても、あまり学習者のためにはなりません。学習者が悩んでいるときは情緒的サポート、情報を欲しがっているときは情報的サポートをすることが、学習者に対しての効果的なサポートと言えます。よって、選択肢1の記述は不適当ではない(適当)と言えます。

2 被支援者のストレスが強すぎる場合とは、引きこもりや鬱に近い状態でしょうか。被支援者のストレスが強すぎて周囲にまったく心を開いてくれなければサポートの範囲や効果も限られたものになると思われます。そのような場合には精神科に診てもらうか、異文化から抜け出す(自文化に戻る)べきなのではないでしょうか。よって、選択肢2の記述は不適当ではない(適当)と思われます。

3 被支援者のストレスのタイプによって、道具的サポートと情緒的サポート、情報的サポート、情報的サポート、評価的サポートを使い分けるべきと思われるので、被支援者のストレスのタイプによってサポートの内容を変える必要があるとする選択肢3の記述は不適当ではない(適当)と言えます。

4 同じような悩みを抱えた者であれば的確なサポートができるかもしれませんし、お互いにサポートしあえる関係になって困難の解決が促進される可能性もあるのではないでしょうか。よって、「被支援者と同じような困難を抱えた者からのサポートは避けたほうがよい」という選択肢4の内容は不適当と考えられます。


したがって、正解は4になります。






2020年7月24日金曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題7の解説

問1 「ニーズ調査・分析(needs analysis)」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P196-199


ニーズ調査・分析とは、学習者の学習目的を調査することです。学習者が学生などの場合、親が学費を出すことが多いため、ニーズ調査・分析は、学習者にだけでなく、親などの経費支弁者にも行う必要があります。


1 学習者の学習目的が分かればいいわけですから、アンケート用紙である必要はありません。電話など口頭でのインタビューやメールでもいいのではないでしょうか。よって、選択肢1の記述は適当とは言えません。

2 学生の場合は、親が学費を出していることが多いため、親にも子供に学習させる目的を聞くべきでしょう。よって、選択肢2の記述は適当と言えます。

3 入門者レベルであっても、学習者にはそれぞれの学習目的があるはずなので、レベルに関わらず、すべての学習者に調査を行うべきです。よって、選択肢3の記述は適当ではありません。

4 始めは「日常会話ができるようになりたい」という理由であっても、勉強していくうちに「日本語能力試験N1を取りたい」とか「コンビニで働いてみたい」という風に、学習の目的が途中で変わることもあるので、調査は開始前だけではなく、コースの途中でも行う必要があります。よって、選択肢4の記述は適当ではありません。


したがって、正解は2になります。






問2 「レディネス調査・分析(readiness analysis)」で行う質問として不適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P196-199


「レディネス」は英語ready(準備ができて)を名詞にしたものなので、準備が出来ている状態を意味します。

なので、レディネス調査・分析とは、学習者の学習に対する準備の状態を調査・分析することを言います。

具体な調査項目としては、
①外的な条件:年齢、職業、国籍、母語、経済的条件、時間的条件、学習環境、生活環境など
②内的な条件:外国語学習経験の有無、日本語既習者に対しては学習総時間数や使用した教科書、学習スタイル、習得レベル

などがあります。


1 学習にどれだけお金をかけられるかは、レディネス調査・分析の外的条件に当たるものです。
2 外国語の学習経験は、レディネス調査・分析の内的条件に当たるものです。
3 既習者がどのような教科書を教科書したのかは、レディネス調査・分析の内的条件に当たるものです。
4 どのような場面で日本語を使うかは、レディネス調査・分析ではなく、ニーズ調査・分析になります。


したがって、正解は4になります。






問3 「様々なシラバス」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚シラバスの分類〛P200


シラバスは、そのコースで教える教授項目のことで、構成方法によって主に次の6つに分類されます。

⦿構造シラバス:文型・文法・語彙の観点から整理されたシラバス。言語形式を重視して、基礎的なものから複雑なものへ積み上げ式に配列される。

⦿場面シラバス:学習者が遭遇するであろう場面を想定し、そこで必要となる表現や語彙、決まり文句などを中心に集めたシラバス。「道を尋ねる」「美容院に行く」「駅で電車の切符を買う」など。

⦿機能シラバス:「依頼する」「交渉する」「誘う」「謝る」「断る」など、言語のコミュニケーション上の働き(機能)に注目し、それを中心に教えていくシラバス。

⦿話題シラバス:学習者の興味や関心事など、学習者が必要としている話題に関する文型、語彙、表現を集めたシラバス。トピックシラバスともいう。


⦿技能シラバス:「聞く」「話す」「読む」「書く」という言語の4技能のそれぞれの熟達を目指すシラバス。スキルシラバスともいう。
⦿課題シラバス:目標言語を使ったコミュニケーションに必要なタスクをリストアップしたシラバス。タスクシラバスともいう。

では、選択肢を見ていきましょう。

1 「機能シラバス」は、「依頼する」「交渉する」「誘う」「謝る」「断る」など、言語のコミュニケーション上の働き(機能)に注目したシラバスなので、「文と意味・使用目的を結びつけて学習できる」という選択肢1の記述は適当と言えます。

2 四技能のうち一つに特化して学びたい人に向いているのは、「機能シラバス」ではなく「技能シラバス」です。

3 「構造シラバス」は、言語形式を重視した積み上げ式のシラバスなんで、「難易度に関係なく学習できる」という記述は適当ではありません。

4 観光で短期間日本に滞在する人に向いているのは、「場面シラバス」です。構造シラバスは語彙、文法、文型など積み上げていく形式なので、短期間だけ日本語が必要な人向きではありません。


したがって、正解は1になります。





📡関連する過去問
2019年度 試験Ⅰ 問題5 問1
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/06/20195.html




問4 「カリキュラムデザイン」で決定することとして不適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:201


カリキュラム・デザインは、シラバスをどのように教えていくか、時系列に沿って具体的に計画することです。

決めるべき項目の主なものは以下の通りです。

✔到達目標
✔時間割
✔クラスサイズ
✔教授法
✔教室活動
✔教材・教具
✔担当教師

など。


選択肢を見ていくと、「教室活動の内容」「コースの進度(時間割)」「各課の目標」を決めるのは「カリキュラムデザイン」ですが、「学習項目のリスト」は「シラバスデザイン」で決めるものです。

シラバスは、教授項目(学習項目)を意味するので、シラバスデザインは、教授項目(学習項目)をデザインして決定する、ということです。


したがって、正解は3になります。






問5 「適当な教材の選定」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:


1 問題文にも書かれている通り、まず「コースデザイン」を行い、その次に「シラバスデザイン」を行います。「シラバス」は教授項目(学習項目)のことでそれを決めるのが「シラバスデザイン」です。つまり、「コースデザイン」の段階ではまだ教授項目(学習項目)が決まっていないわけですから、選択肢1の記述は適当ではありません。

2 コースデザインで、学習者のニーズ調査・分析とレディネス調査・分析を行ってからシラバスを決めます。使いたい教科書にシラバスを合わせるのであれば、ニーズ調査・分析とレディネス調査・分析を行う必要はありません。学習者のニーズとレディネスに合ったシラバスを決定し、そのシラバスに合う教材を検討すべきです。よって、選択肢2の記述は適当ではありません。

3 選択肢3の記述は選択肢2と対立する内容になっています。ということはどちらかが間違いでもう一方が正解ということになります。選択肢3の記述は、まさに選択肢2で説明した内容であり適当です。

4 生教材は、レベルに合った内容であればどのレベルでも使うことができます。よって、選択肢4の記述は適当ではありません。


したがって、正解は3になります。


📡関連する過去問 (生教材)
2019年度 試験Ⅰ 問題5 問5
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/06/20195.html

2020年7月23日木曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題6の解説

問1 「帰納的アプローチ」に関する記述として適当なものを選ぶ問題


この問題は「帰納」という言葉の意味を問う問題です。設問では「文法指導における」とか「~的アプローチ」と書いてあるので、専門用語っぽく見えますが、あんまり関係ありません。「帰納」という日本語の意味が分かっていれば正答を選ぶことができます。


帰納とは、個々の事例から法則・命題を導き出すことです。

たとえば、

事例①:Aという黒い鳥がいます。Aは何の鳥か尋ねてみたらカラスでした。
事例②:Bという黒い鳥もいます。Bは何の鳥か尋ねてみたらBもカラスでした。
事例③:Cという黒い鳥もいます。Cも何の鳥か尋ねてみたらやっぱりカラスでした。

そうなると、「黒い鳥はみんなカラス」ということになるわけです。これが帰納です。


日本語教育で言えば、たとえば語彙や文型の説明をするときに、辞書的な意味を言うのではなく、その語彙や文型を使った例文をたくさん提示する。

そうすると、学習者は「あーー、この言葉はこーゆー意味なんだな」とか「この文型はこういう時に使うのか」ということが理解できるわけです。

これが「帰納的アプローチ」というものです。


選択肢を読んでみれば、これと同じことを言っているのが3であることが分かると思います。

したがって、正解は3になります。



なお、「帰納」とセットで覚えておきたいものに「演繹」がありますが、演繹は、原理や法則から、個別のものについて推論するものです。

たとえば、「黒い鳥はみんなカラス」という法則があるならば、

あそこに黒い鳥がいる→黒い鳥はカラスである→であれば、あの鳥は「カーカー」と鳴くはずだ

と推論できるわけです。

これが演繹という考え方です。


日本語教育で言えば、語彙の辞書的な意味を説明して、学習者にその語彙を使った例文を作らせるなどが、「演繹的アプローチ」と言えるでしょう。







問2 初級における媒介語の使用に関する記述として適当なものを選ぶ問題


媒介語は、目標言語以外の言語で、多くの場合、学習者の母語になると思います。学習者全員が英語を話せるということが分かっていれば英語も媒介語となりうるでしょう。


1 日本語の知識が少ない初級の学習者は、日本語の説明だけでは理解できないこともあるでしょう。日本語だけの使用に拘って一つの項目に時間をかけすぎると、授業の目標を達成できなくなることも考えられます。場合によって、媒介語を使用することは間違いではありません。

2 選択肢1のように、場合によっては媒介語を使用することは間違いではありませんが、分からない時、すぐ媒介語を使用するようになってしまうと目標言語の習得を遅らせることになってしまいます。媒介語の使用に依存する学習者を育てないように留意することは大切なことです。

3 よく使う表現こそ目標言語を使って、学習者に覚えさせる必要があるでしょう。

4 媒介語を使用すれば学習者の認知的負荷は軽減できるので、社会的・文化的背景の理解には有効であると思われます。


したがって、正解は3になります。




問3 オーディオ・リンガル・メソッドの「文型練習」を行う際の留意点として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚オーディオ・リンガル・メソッド〛P191


オーディオ・リンガル・メソッドは、語や文型を入れ替えて、繰り返し口頭練習し、習慣化させることによって覚えさせる教授法です。

代表的な練習方法にはパターン・プラクティス(文型練習)ミム・メム(mim-mem)練習ミニマル・ペアを用いた練習などがあります。


1 文型練習(パターン・プラクティス)は、目標とする文型を音声的、文法的に正確に操作する力をつけることを目的としています。そのため、最初に教師が学習者に対して目標とする文型を口頭で示し、正確な発音、アクセント、リズムを教えてから個別練習をする必要があります。よって、選択肢1の内容は適当と言えます。

2 文型練習(パターン・プラクティス)は、目標とする文型を音声的、文法的に正確に操作する力をつけることを目的としています。よって、選択肢2の内容は適当ではありません。

3 文型練習(パターン・プラクティス)は、オーディオ・リンガル・メソッドの代表的な練習方法です。オーディオ・リンガルは、音声(=オーディオ)・言葉(=リンガル)という名称が示す通り、耳で聞いて口に出す教授法です。書くドリル練習は行いません。よって、選択肢3の内容は適当ではありません。

4 選択肢1の内容の通り、誤って覚えないために最初に全体練習を行うことが重要です。全体練習をして目標とする文型の使い方、正確な発音、アクセント、リズムを覚えた後には、口頭練習で習慣化させるため、学習者同士でQ&Aを繰り返し練習を行うことが大切と言えます。よって、選択肢4の内容は適当とは言えません。


したがって、正解は1になります。









問4 パターン・プラクティスの「応答練習」を選ぶ問題


「応答練習」は読んで字のごとく、質問に応答する(答える)練習です。


1 まず教師が質問をして、その後に「はい」で答えるのか「いいえ」で答えるのかの指示だけを出しています。学習者はその指示にしたがって適切な答え方をしているので、「応答練習」と言えます。

2 まず教師が文を示し、その後に別の語を提示しています。学習者は教師が始めに示した文に、後で提示された別の語を代入して新しい文を作っているので、「代入練習」と言えます。

3 教師が言ったことを、学習者はそのまま繰り返してるので、「模倣練習」と言えます。

4 教師が言ったことを、学習者が否定形に変えているので、「変形練習」と言えます。


したがって、正解は1になります。









📡関連する過去問
2019年度 試験Ⅲ 問題5 問3
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/06/20195_28.html





問5 コミュニケーション能力の養成に最も効果的な練習方法を選ぶ問題


1 ラポートトークとは、相手の感情に働きかける話し方のようです。で、ラポートトークと対象的な話し方にリポートトークというものもあるようです。「ラポート・トーク」は、2019年度試験Ⅰ問題4の問2の選択肢にも出てきているので、Googleなどで検索しておきましょう。

2 シナリオ・プレイとは、劇やドラマのような台本・台詞を覚えてその役割を演じることです。ロールプレイなどと同様に、コミュニケーション能力の養成に効果的な練習方法です。

スリーエーネットワークのホームページにシナリオ・プレイに関する記事がありましたので、読んでおくと参考になると思います。
https://www.3anet.co.jp/np/info-detail/152/


3 フォローアップ・インタビューとは、フォローアップ・クエスチョンと同じものでしょうか。フォローアップ・クエスチョンであれば、相手が発した言葉に関する質問をすることで話を弾ませるための会話のテクニックになります。

たとえば、「サッカー観るのが好きなんだよね」という発話に対しては、「サッカーされてたんですか?」とか「好きな選手は誰ですか?」というフォローアップ・クエスチョンをすることで相手に興味を示すことができ、話が盛り上がるわけです。

で、結局選択肢3は、きっと練習方法ではない、ということなのではないかと思います。
 
4 ディクテーションは、教師または音声教材の音をそのまま書き取っていく、聞き取りの練習です。よって、コミュニケーション能力の養成に適した練習とは言えません。


したがって、正解は2になります。

2020年7月21日火曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題5の解説

問1 「熟達度テスト」を選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚テストの種類〛P231,232


「熟達度評価」として行われるテストは、学習者・受験者がその時点で持っている能力を測定することを目的としたもので、「熟達度テスト(プロフィシエンシー・テスト)」または「能力テスト」と呼ばれるものです。たとえば、日本語能力試験やOPIなどがこれに当たります。


1 「適正テスト(アプティテュード・テスト)」は受験者の語学学習に対する適正を測るもので、受験者の実力(熟達度)や学習の到達具合を測るものではありません。たとえば、入社試験などで行われる、単純な計算をひたすら繰り返すクレペリン検査のようなものが適正テストです。

2 「プレースメント・テスト」とは「クラス分けテスト(組分けテスト)」のことで、その受験者のその時点で持っている能力を測って、その受験者に合ったレベルのクラスに振り分けるわけですから、プレースメント・テストは「熟達度評価」として行われるテストと言えます。

3 「コースの定期テスト」は、そのコースで学んだことがどれだけ身に付いているか、つまり、コースの到達目標をどれだけ達成できているかを測る「到達度テスト(アチーブメント・テスト)」です。熟達度テストではありません。

4 「単元テスト」も「コースの定期テスト」と目的は同じで、その単元の内容がどれだけ理解できているか、身に付いているか、つまり、単元の到達目標をどれだけ達成できているかを測る「到達度テスト(アチーブメント・テスト」なんで、熟達度テストではありません。


したがって、正解は2になります。





問2 「訂正法(correction)」と呼ばれるテスト形式の例として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚客観テストと主観テスト〛P235-237


1 いくつかの選択肢の中から正答を選ぶテスト形式は多肢選択法といいます。訂正法ではありません。
 
2 受身への書き換えのように、指示にしたがって答えを書かせたり文を変換させるテスト形式は指示法・転換法といいます。訂正法ではありません。

3 このように誤用のある個所を正しく訂正させるテスト方式が訂正法です。

4 単語を正しい順序に並び替え、文を作らせるテスト方式は再配列法といいます。訂正法ではありません。


したがって、正解は3になります。







問3 テストの「妥当性」を損なう要因として最も適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚よいテストの条件〛P238


よいテストの条件には、妥当性、信頼性、有用性などがあり、その中でも特に重要視されているのが妥当性です。









1 本来であれば正解できるのに、問題文の指示が悪いせいで低い点数になってしまう。これは、テストの点数がその人の実力を適切に示していないということであり、そのテスト(の点数)は信頼できないということになります。よって、選択肢1は信頼性を損なう要因と言えます。

2 漢字が読めるか読めないかによって点数が上下するのであれば、そのテストは聴解能力を測定するものとして妥当とは言えません。よって、選択肢2は妥当性を損なう要因として適当と言えます。

3 分からなくても正解できてしまう、受験者の能力が低くても高い得点がとれてしまう。選択肢1とは逆のパターンです。これも、テストの点数がその人の実力を適切に示していないということであり、そのテスト(の点数)は信頼できないということになります。よって、選択肢3は信頼性を損なう要因と言えます。

4 サイレンの音によって聴解テストが聞こえづらくなりテスト結果に影響が出ることが考えられます。テストを実施した場所や時間によって、サイレインが聞こえるか聞こえないかによって、結果が変わる可能性がある、つまり、安定した結果が得られない可能性があるので、選択肢4は信頼性を損なう要因と言えます。




問4 「標準偏差」の説明として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚標準偏差〛P245、〚項目困難度・項目弁別力〛P246、〚中央値〛P244


赤本P245を見ると「標準偏差は得点の分布状況における『平均値からの標準的な隔たり』を示すものと考えてよい」と記載してありますが、はっきり言ってこれでは何のことかよく分からない人が多いのではないかと思います。

いまいちよく理解できない人は、まずこれだけ覚えておきましょう。

標準偏差とは、ひとことで言えば、(得点の)バラツキを表すものです。標準偏差のキーワードはバラツキ


選択肢で言えば、1の「散らばり」「広がり」がバラツキを表す言葉です。

したがって、正解は1になります。


2 項目弁別力の説明です。
3 中央値の説明です。
4 項目難易度の説明です。








問5 「Can do statements」を使った自己評価の記述として適当なものを選ぶ問題 

📖赤本(第4版)関連箇所:〚~ができる(Can-do)〛P329


Can do statementsとは、各レベルを、「~ができる」という尺度で評価するための、「簡単な日常会話ができる」「新聞を読むことができる」などの実社会で行う具体的な言語活動を示したもののことをいいます。


1 Can do statementsは、学習者の言語レベルを「~ができる」という形で表わすものであり、他の学習者と技能や熟達度を比較するものではありません。

2 たとえば「生活ができる」という抽象的な記述文よりも、「ニュースが理解できる」「道を尋ねて目的地に行くことができる」「駅で切符を買うことができる」「レシピを見て料理を作ることができる」という具体的な記述文の方が学習者の能力を正確に表すことができます。よって、選択肢2の記述は適当ではありません。

3 Can do statementsは、実社会で行う具体的な言語活動を示したものなので、普段から高い目的意識を持って自律的に勉強することは、自己評価の結果に大いに影響するものと考えらえます。

4 学習者自身が評価すると、控えめな学習者は自身を低く評価する傾向があるだろうし、強気な学習者は自身を高く評価する傾向があるのではないでしょうか。このように自己評価は個人の特性に影響される側面があるので、選択肢4の記述は適当ではないと思います。


したがって、正解は3になります。
 



2020年7月19日日曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題4の解説

問1 「グローバルエラー」の例として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P281


第二言語学習者の誤用にはミステイクとエラーの2種類があります。
⦿ミステイク:疲労や不注意からくるその場限りの一時的な間違い
⦿エラー:学習者が繰り返しおこす知識としての誤り。

さらにエラーには2つの下位分類があります。
⦿グローバル・エラー:意味の理解が不可能で、コミュニケーションに支障を来す間違い
⦿ローカル・エラー:意味の理解が可能で、コミュニケーションに支障を来さない間違い


1 「それはいいと思います」は、発話意図の「それはいいと思います」という意味であることが理解できるので、ローカル・エラーと言えます。

2 「それは友達がもらった本です」は、発話意図の「それは友達にもらった本です」とは異なる内容になってしまい、表出した発話から発話意図を理解することができない間違いなので、グローバル・エラーと言えます。

3 「先週、温泉に行きます」は、発話意図の「先週、温泉に行きました」という意味であることが理解できるので、ローカル・エラーと言えます。

4 「これを見ってください」は、発話意図の「これを見てください」という意味であることが理解できるので、ローカル・エラーと言えます。


したがって、正解は2になります。


☞超重要絶対暗記 《ミステイクとエラー》
⦿ミステイク:疲労や不注意からくるその場限りの一時的な間違い。
⦿エラー:学習者が繰り返し起こす知識としての誤り。
 ・グローバルエラー:意味の理解が不可能で、コミュニケーションに支障を来すようなエラー
 ・ローカルエラー:意味の理解が可能で、コミュニケーションに支障を来さないエラー


📡関連する過去問
2019年度 試験Ⅰ 問題10 問1
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/06/201910.html




問2 「言語内の誤り」の例として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)〛P281


言語内の誤りとは、たとえば、「桜がとてもきれかった」などの間違いは、「美しかった」などイ形容詞の活用をナ形容詞に適用してしまっている間違いです。このように、日本語の文法を、日本語の中で間違って使用してしまっている誤用が言語内の誤りです。

一方、言語間の誤りとは、たとえば、英語母語話者の学習者が、目上の人に、人称代名詞の「彼/彼女」を使ったとします。英語では目上の人に「he/she」を使うことは特に問題ありませんが、日本では失礼にあたります。このように、外国語の文法や言い回し、言語習慣を日本語に持ち込んでしまったことによる誤用が言語間の誤りになります。


1 「面白いじゃない」は、ナ形容詞の否定形をイ形容詞に適用してしまっている間違いです。日本語の文法を、日本語の中で間違って使用してしまっている誤用なので、言語内の誤りだと判断できます。

2 「教えることができますか」は、英語のCan you teach me?をそのまま日本語にして使用したことによる誤用と考えられます。英語以外の外国語でも使用する表現かもしれませんが、日本語で「教えることができますか」という表現はしません。よって、選択肢2の例は英語と日本語の言語間の誤りだと判断できます。

3 日本語では、この場合「これ」ではなく「それ」を使います。英語では間違いでないことから、英語もしくは他の外国語と日本語の言語間の誤りだと判断できます。

4 日本語では、この場合「来たい」と表現します。英語では「I must come・・・・・」という言い方をするため、英語もしくは他の外国語と日本語の言語間の誤りだと判断できます。


したがって、正解は1になります。


なお、選択肢2~4のように、文法的に間違っているわけではないが不適切な表現を、プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)と言います。合わせて確認しておきましょう。


☞超重要絶対暗記 《プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)》
⦿プラグマティック・トランスファー(語用論的転移):文法的に間違っているわけではないが不適切な表現のこと。


📡関連する過去問
2019年度 試験Ⅲ 問題10 問5
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/06/201910_30.html




問3 「使い慣れない形式や自信のない形式を使わない」というようなストラテジーは何というかを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚コミュニケーション・ストラテジー〛P321


コミュニケーションを円滑に必要なのは、文法や語彙などの言語学的な能力だけではありません。たとえば、適切な語彙が浮かばない場合、それを別の言葉で言い換えたり、「あれ何て言うんだっけ?」って相手に援助を求めるなどの認知的な能力も大切です。

このような「話し手と聞き手の間で意味が共有されていないときに、その両者が意味にたどり着こうとするお互いの努力」のことを、タローンは「コミュニケーション・ストラテジー」と呼びました。


コミュニケーション・ストラテジーには次のような分類があります。


☞超重要絶対暗記 《コミュニケーション・ストラテジー》
コミュニケーション・ストラテジーには以下のものがある。
⦿回避:語彙力不足により表現できないものを表現しないこと。複雑な文法構造を使わずに、簡単な別の構造を使って表現すること。
⦿言い換え:ある語を似通った別の語で表現すること。適切な語を使わず、別の言い方で表現すること。
⦿母語使用あるいは意識的な転移:母語または他の言語による翻訳に依存すること。
⦿援助要求:学習者が母語話者に助けを求めたり、辞書を使ったりすること。
⦿ジェスチャー:身振り、手振りに頼ること。


問題となっている下線部C「使い慣れない形式や自信のない形式を使わない」のはコミュニケーション・ストラテジーの「回避」に当たります。


したがって、正解は2になります。


📡関連する過去問
2019年度 試験Ⅲ 問題10 問5
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問4 学習者に言い直しを求める「フィードバック」を何と言うか選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚明示的フィードバック・暗示的フィードバック〛P229、〚インターアクション仮説〛P294,295


「フィードバック」という用語を見たら、「明示的フィードバック」と「暗示的フィードバック」が反射的に頭に浮かぶようにしておかなければなりません。それぐらい重要なワードです。これが第一段階。

第二段階は、暗示的フィードバックは「リキャスト」とも言うということ。リキャストも超重要ワードです。


☞超重要絶対暗記 《明示的フィードバックと暗示的フィードバック(リキャスト)》
⦿明示的フィードバック:学習者に間違いの存在をはっきり示すフィードバック。
⦿暗示的フィードバック:自然な応答の中でさりげなく訂正する方法。リキャストとも呼ばれる。


で、明示的フィードバックにはいろいろ種類(明示の仕方)があって、赤本P229には「これ、昨日買ったの辞書です」という発話に対するフィードバックとして以下の7種類の明示的フィードバックを列挙しています。


(以下、赤本P229からの引用)

①「間違ってますよ」/ポーズをおく/小首を傾げる:誤用の存在を知らせる。
②「これは昨日買った辞書です、が正しいです」:正解を言う
③「助詞が違いますよ」:誤用の箇所と性質を説明する
④「これ・・・・?昨日買った・・・・?」:誤用の部分の直前まで言う
⑤「これ、昨日買ったの辞書です?」:誤用をそのまま繰り返す
⑥「すみません、分かりません。もう一度言ってください」:再度の発話を要求する
⑦「これ、の後には『は』を使います。買った、の後には『の』は使いません」:誤用の原因を正解とともに説明する


1 「直接訂正」は、明示的フィードバックの⑦に当たるものだと思います。「直接訂正」に言い直しを求める意味合いはありませんので、選択肢1は、学習者に言い直しを求めるフィードバックとして適当ではありません。

2 「明確化要求」は、ロングインターアクション仮説の中で出てくる用語です。「相手の発話が不明確で理解できないときに、発言を明確にするよう要求する」ものであり、明示的フィードバックで言うところの⑥に当たるものです。よって、選択肢2は、学習者に言い直しを求めるフィードバックとして適当と言えます。


☞超重要絶対暗記 《インターアクション》⦿インターアクション:、言語を用いた他者とのやりとりのことで、近年では、言語習得はインターアクションを通じて、お互いに意味交渉することで促進されるという考え方が一般的となっている。会話の相手とのコミュニケーションが滞ったときに、お互いの意図が通じるよう工夫するやりとりには以下のようなものがる。

明確化要求:相手の発話が不明確で理解できないときに、発言を明確にするよう要求すること
確認チェック:相手の発話を自分が正しく理解したがどうかを確認すること
理解チェック:自分の発話を相手が正しく理解したがどうかを確認すること



3 「誘導」は、明示的フィードバックの④に当たるものだと思います。「誘導」に言い直しを求める意味合いはありませんので、選択肢3は、学習者に言い直しを求めるフィードバックとして適当ではありません。

4 「繰り返し」は、明示的フィードバックの⑤に当たるものだと思います。「繰り返し」に言い直しを求める意味合いはありませんので、選択肢4は、学習者に言い直しを求めるフィードバックとして適当ではありません。




問5 「発話に対する『口頭訂正フィードバック』」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚口頭表現の誤用訂正プロセス〛〚文字表現の誤用訂正プロセス〛P228


1 問題文に「どのような誤用であるかを見極めることが大切である」と記載してあるように、学習者がどのように表現したかったのか、その発話意図が確認できなければ正しいフィードバックは行えません。よって、選択肢1は、「発話に対する『口頭フィードバック』」に関する記述として適当ではありません。

2 赤本P228に記載してある通り、口頭表現の誤用訂正は、学習者に誤りだと口頭で知らせ、その場で訂正させ、定着練習させるものなので、明示的フィードバックが中心になります。よって、選択肢2は、「発話に対する『口頭フィードバック』」に関する記述として適当ではありません。

3 赤本P228に記載してある通り、文字表現の誤用訂正は、「直接的に誤用の脇に正しいものを表記」したり、「下線を引き、そこに符号やヒントを書く」ものです。口頭での訂正とは違い訂正の箇所や正しい表現を覚えておく必要がないため(書いてあるものを見ればいいため)、口頭訂正フィードバックの方が、ライティング・フィードバックより短期記憶にかかる認知的負荷は大きいです。よって、選択肢3の記述は適当ではありません。

4 発話に対するフィードバックには、漢字などの文字の間違いがないため、文法・表現など形式面へのフィードバックが主であるという選択4の記述は、「発話に対する『口頭フィードバック』」に関する記述として適当と言えます。


したがって、正解は4になります。

2020年7月17日金曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題3Dの解説

D 【日本語の歴史】

(16)日本語の大きな2つの区分に関する空欄補充問題


問題文の空欄を含む一文にある「キ・ケリ・ツ・ヌ」と「テイル・タ」だけでも正解を選べるかもしれませんが、その後の文に「中世を境としたこの大きな変化」とあることから、空欄に入る言葉は、時代による区分を表したものであることが分かります。


1 「口語」と「文語」は、会話で使う言葉と書き言葉の違いなので、空欄に入れる言葉として適当ではありません。

2 「上方語」と「江戸語」は、地域による言葉の違いなので、空欄に入れる言葉として適当ではありません。

3 「古語」は、今は使われなくなった古い言葉で、「新語」は、新しく作られたり使われだした言葉(新造語)のことです。「古語」も「新語」も「中世を境とした」ものではありませんので、空欄に入れる言葉として適当ではありません。

4 言語における一般的な時代区分は、上代(奈良時代)、中古(平安時代)、中世(鎌倉、室町、安土桃山時代)、近世(江戸時代)、近代(明治時代~1945年)、現代(1945年以降)の6分類になりますが、古代(鎌倉以前)と近代(室町以降)と大きく2つに分けることもあります。よって、選択肢4は、空欄に入れる言葉として適当と言えます。


したがって、正解は4になります。







(17)「終止形と連体形の合流や二段動詞の一般化」の例に関する問題


この問題は、「終止形と連体形の合流」や「二段動詞の一段化」について理解していないと正解を選ぶことが難しいと思いますので、まず最初に「終止形と連体形の合流」や「二段動詞の一段化」について確認しておきましょう。


中世の時代(鎌倉・室町時代など)に文法の活用体系に大きな変化がありました。そのひとつが、連体形で終わることが一般的になったということです。

本来、連体形は終わるときの形ではありません。連体形で終わらせるのは、係り結びの法則や余韻を残す場合など特別な場合だけに限られていました。

しかし、中世になると、特別な場合でもないのに、連体形で終わらせる現象が一般化していきました。

たとえば、二段動詞の「受く」は平安時代の文法では、

(未然形)受け (連用形)受け 終止形(受く) 連体形(受くる) 已然形(受くれ) 命令形(受けよ)

でしたが、連体形で終わる現象が広まると、

 
(未然形)受け (連用形)受け 終止形(受くる) 連体形(受くる) 已然形(受くれ) 命令形(受けよ)
 
となりました(「終止形と連体形の合流」)。さらに未然形「受け」の「け」の部分を、終止形、連体形、已然形でわざわざ「く」に変えないでそのまま「け」を使う単純化の現象が起こり、

(未然形)受け (連用形)受け 終止形(受ける) 連体形(受ける) 已然形(受けれ) 命令形(受けよ)


となり、もともと二段動詞だったものが一段動詞化しました。これが「二段動詞の一段化」ということになります。


選択肢を見てみると、3つの活用形が→で結ばれていますが、まず、3つ目の活用形が一段動詞の活用形になっていない選択肢3と4は消去できます。

次に、選択肢1と2の1つ目と2つ目の活用形を見たときに、「食ぶ」が終止形で、「食ぶる」が連体形であることが分かると思います。


したがって、正解は1になります。




(18)(係)助詞に関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚助詞〛P39-42


係助詞とは、平叙文や疑問・反語の文などの文中または文末に用いられて、問題点、強調点、疑問点などを示すもので、「は・も・ぞ・なむ・や・か・こそ」などがあります。

文中に「ぞ・なむ・や・か」または「こそ」があるときは、それを受けて結ぶ活用語が、それぞれ連体形、已然形になります(係り結びの法則)。


⦿文中に係助詞「ぞ・なむ・や・か」のいずれかが使われる → 結びが「連体形」になる。
例) (無助詞)涙落つ。 → (係助詞「ぞ」が使われる) 涙ぞ落つる。

⦿文中に係助詞「こそ」が使われる → 結びが「已然形」になる。
例)(無助詞)涙落つ。 → (係助詞「こそ」が使われる)涙こそ落つれ。


では、それぞれの選択肢を見ていきましょう。


1 「か」はもともと係助詞と呼ばれていたものであり、現在は接続助詞ではなく、並列助詞として使用されています。よって、選択肢1は下線部Bの例として適当ではありません。

2 「も」はもともと係助詞と呼ばれていたものであり、現在は取り立て助詞として使用されてます。よって、選択肢2は下線部Bの例として適当と言えます。

3 「は」はもともと係助詞と呼ばれていたものであり、現在は格助詞ではなく、取り立て助詞として使用されています。よって、選択肢3は下線部Bの例として適当ではありません。




4 「ぞ」はもともと係助詞と呼ばれていたものでありまずが、現在では助詞として使用されていません。よって、選択肢4は下線部Bの例として適当ではありません。



したがって、正解は2になります。


この問題は、選択肢に用意されている助詞「か」「も」「は」「ぞ」はすべてもともと係助詞と呼ばれていたものであり、もともと係助詞と呼ばれていたものとそうでないものを判別する必要がなかったため、係助詞に関する知識はまったく必要ない問題でした。




(19)「くれる」と「やる」の対立に関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚授受表現〛P69


やりもらい、あげもらいなど、物や動作の授受を表す表現は授受表現と呼ばれ、、「あげる(やる)」「くれる」「もらう」は、立場や視点の違いによって適切な動詞が決まります。


したがって、正解は2になります。


📡関連する過去問
(授受表現)2019年度 試験Ⅲ 問題5 問5
https://kenteigoukaku.blogspot.com/2020/06/20195_28.html




(20)「日本語内部における変化」に関する問題
 

1 敬語が相対敬語として使用されるようになったのは、「日本語内部における変化」のようですが、そのことがどこに書いてあるのか等のエビデンスの所在は分かりません。

2 ラ行音で始まる単語が使用されるようになったのは、「日本語内部における変化」ではなく「外国語の影響による変化」です。

3 閉音節とは子音で終わる語のことで、逆に母音で終わる語のことを開音節といいます。つまり、閉音節とは英語のdogやcatなどのことです。もともと日本語には閉音節はなかったそうです。ということは「ん」で終わる語はすべて外来語ということなのでしょうか・・・・

4 漢語が使用されるようになったのは、「日本語内部における変化」ではなく「外国語の影響による変化」です。


したがって、正解は1になります。


この問題は間違ってしまってもしょうがないかもしれません。ただ、これを機会に選択肢の4つの内容をすべて覚え、今後に活かすことが大事なことだと言えるでしょう。

2020年7月15日水曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題3Cの解説

C 【言語表現のあいまいさ】

(11)「足」という言語表現の漠然性を表す例を選ぶ問題


問題文によると、左右や数、部位などが特定されていない使われ方をしている「足」の例を選べばいいことが分かります。


1 「タコには足が8本ある」の「足」は足全体のことを指し、特定の足や部位を指しているわけではないので、「あいまいさ」があるわけではありません。

2 「彼は足を組んで座った」の「足」は足全体のことを指し、足を組む動作は両方の足を使って行うことで左右を特定する必要もないので、「あいまいさ」があるわけではありません。
 
3 「彼は足を怪我した」の一般的な解釈は、「足首を捻った」とか「膝を擦りむいた」など足のどこかの部位を怪我したというものであり、両方の「足」を全体的に怪我したわけではありません。よって、選択肢3の表現は「あいまいさ」があると言えます。

4 「馬は足が速い」の「足」は歩くことや走ること、またはその能力の意味であり、人間や動物のからだの部位を意味するものではないので、左右や数、部位などと関係するものではありません。


したがって、正解は3になります。




(12)程度副詞「ちょっと」の例として不適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚程度副詞〛P35


問題文中での説明にある、物の数量や程度を表す「ちょっと」などの副詞は、程度副詞と呼ばれるものです。


1 「ちょっと田中さん」の「ちょっと」は呼びかけで使われており、物の数量や程度を表わしているわけではありません。

2 「もうちょっと給料が上がったら・・・」の「(もう)ちょっと」は「(もう)少し」の意味で、物の数量や程度を表わしています。

3 「ちょっとだけ飲ませて・・・」の「ちょっと(だけ)」は「少し(だけ)」の意味で、物の数量や程度を表わしています。

4 「いつもよりちょっと寒かった」の「ちょっと」は「少し」の意味で、物の数量や程度を表わしています。


したがって、正解は1になります。



 

(13)「構造的曖昧性」の例を選ぶ問題


まずは問題文を読んで、「語彙的曖昧性」と「構造的曖昧性」の違いをよく理解してから選択肢に臨みましょう。

⦿語彙的曖昧性:語が本来持っている辞書的意味に関する曖昧性
⦿構造的曖昧性:語形成のレベルや文のレベルで生じる構造の曖昧性


1 「10名くらい」というのは曖昧な表現ですが、これは「くらい」という語が本来持っている辞書的意味に関する曖昧性なので、選択肢1は「語彙的曖昧性」の例と言えます。

2 「ざっと1000人ばかり」というのは曖昧な表現ですが、これは「ざっと」や「ばかり」という語が本来持っている辞書的意味に関する曖昧性なので、選択肢2は「語彙的曖昧性」の例と言えます。

3 曖昧な表現は確認できません。

4 「昨日大学で友だちが財布を落としたという話を聞きました」は、財布を落としたのが昨日なのか、話を聞いたのが昨日なのか、大学で財布を落としたのか、大学で話を聞いたのかなど、解釈の可能性が複数存在し、そのいずれの解釈であるのかが確定することができません。これは文のレベルで生じる構造による曖昧性なので、選択肢4は「構造的曖昧性」の例として適当と言えます。


したがって、正解は4になります。




(14)言語情報が不足していることによって解釈が決定できない例を選ぶ問題


1 「山田さんも誘う?」「いいよ」というメールのやり取りでは、「いいよ」の意味が「(誘っても)いいよ」なのか「(誘わなくて)いいよ」なのかが分かりません。

これがメールではなく口頭でのやり取りであれば、上がり調子で言えば「(誘っても)いいよ」だし、下がり調子で言えば「(誘わなくて)いいよ」というように語調によって「いいよ」の意味を判別することができます。

よって、選択肢1は、「語調」という言語情報が不足していることによって解釈が決定できないケースの例として、適当と言えます。

2 「仕事が早く終われば」の後に続くのは「行く」であり、解釈で迷うことはありません。

3 「結構ですよ」は「(資料を)差し上げられますよ」の意味であり、解釈で迷うことはありません。

4 二人のやり取りには、解釈で迷っているところはありません。


したがって、正解は1になります。




(15)授業後に学習者が教師に向かって「先生、私には妹がいます」と言った場合のあいまいさの説明を選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚命題とモダリティ〛P51,84


命題とは、文の中心的な骨格となる部分のことです。たとえば、「雨が降るかもしれない」という文であれば、「雨が降る」が命題で、それに命題の内容を発話者がどのように捉えているかを表すモダリティ「かもしれない」から成り立っています。

もし発話者が「雨が降る」という命題に対して強い自信を持っていれば「雨が降るに違いない」「雨が降るはずだ」などの表現になるわけです。


1 「先生、私には妹がいます」の命題は「私には妹がいる」であり命題は解釈可能です。文法性の判断がつかないところはありません。

2 文法性の判断がつかないところはありません。

3 命題は解釈できても、脈絡もなく「私には妹がいます」と言われると、どういうつもりでそれを言ったのか、なんのつもりで言ったのか理解することができません。よって、「命題は解釈可能でも、発話者の意図がはっきりしない」という選択肢3の内容は適当と言えます。

4 発話者の意図ははっきりしませんが、命題は解釈可能です。


したがって、正解は3になります。

2020年7月14日火曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題3Bの解説

B 【対義語】

(6)対義語のタイプに関する空欄補充問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚対義語のタイプ〛P123


対義語のタイプを確認しておきましょう。




ということで、(6)の問題は「一方が肯定されれば、他方が否定される関係」=相補的対義語の例を選択肢から選ぶ問題です。


1 「重い/軽い」は両極的であり、「少し重い」とか「まあまあ軽い」というように中間段階を持つので、連続的対義語になります。

2 「ある/ない」は、「ある」ということでなければ「ない」ということであり、「ない」ということでなければ「ある」ということになります。「ある」でも「ない」でもない状態はありえません。よって、「ある/ない」は、一方が肯定されれば、他方が否定される相補的対義語になります。

3 「始まり/終わり」は両極的ではありますが、「少し始まり」とか「けっこう終わり」というように中間段階があって連続的に繋がっているわけではないので、両極的対義語になります。

4 「前進/後退」は、両極的ではないので両極的対義語でも連続的対義語でもありません。一方が肯定されれば他方が否定される関係でもありません(「前進」してなければ必ず「後退」してるわけではありません。「停滞/停止」していることも考えられます)ので、相補的対義語でもありません。「前進/後退」は、視点によって捉え方が異なるので視点的対義語になります。


したがって、正解は2になります。




(7)「大きい/小さい」というタイプの対義語に関する空欄補充問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚対義語のタイプ〛P123、〚副詞〛P35,36


「大きい/小さい」は、両極的で中間段階を持つので連続的対義語になります。中間段階というのは(6)での説明の通り、程度によって表現できるということを意味します。

したがって、正解は3になります。


1 頻度副詞は、「いつも」、「たいてい」、「ときどき」、「しばしば」、「まれに」など頻度を表すものです。
2 陳述副詞は、文末と呼応し、文の陳述の仕方を表すものです。「たぶん(~だろう)」、「まるで(~ようだ)」、「決して(~ない)」など。
4 様態副詞は、動作や作用の様子を説明するもので、擬態語や擬音語、同じ音を繰り返す畳語などが多い。「にっこり(と)」、「さっぱり(と)」、「すっきり(と)」、「ドカーン(と)」、「ひそひそ(と)」、「バタン(と)」、「ピカピカ」、「べとべと」、「のろのろ」、「ガミガミ」など。




(8)「互いに相手の存在を前提にしている対義語」の例を選ぶ問題


選択肢を一つずつ吟味していきましょう。


1 「看護師」は男性にも女性にも使う言葉で、「看護婦」は女性にしか使いません。両者は、「看護師」の中に「看護婦」も含まれる包摂関係にあるので、対義語ではなく類義語になるのではないかと思います。「看護師/患者」であれば互いに相手の存在を前提にしていると言えると思います。

2 「社長」の対義語は「社員」とか「従業員」になるのではないでしょうか。で、「部下」の対義語が「上司」になると思います。「上司/部下」であれば互いに相手の存在を前提にしている対義語になると思います。そもそも、一人で会社を経営している人(社長)もいるわけですから、「社長」が互いの存在を前提にしている対義語の片方になるということはあり得ないでしょう。

3 「姉/兄」は性別の違いであって、互いに相手の存在を前提にしている対義語ではありません。「姉/妹」や「兄/弟」、「姉/弟」、「兄/妹」であれば互いに相手の存在を前提にしている対義語と言えるでしょう。

4 「親」であれば「子」がいるということであり、「子」であれば(必ず)「親」がいるわけですから、「親/子」は、互いに相手の存在を前提にしている対義語と言えます。


したがって、正解は4になります。




(9)語種が共通でない対義語の例を選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚語種〛P111


語種は、語彙がどのように生じたかに注目した語彙の分類で、語種には次の3種類があります。




1 プロもアマも外来語なので、語種は共通です。
2 砂糖も醤油も漢語なので、語種は共通です。
3 頂上は漢語、麓は和語なので、語種は共通ではありません。
4 水も油も和語なので、語種は共通です。

したがって、正解は3になります。




(10)対義語同士の品詞の関係に関する問題


1 「違う」の対義語は「同じ」(ナ形容詞)なので、選択肢1の記述は適当ではありません。
2 「間に合う」の対義語は「遅れる」(動詞)なので、選択肢2の記述は適当ではありません。
3 「嫌い」の対義語は「好き」(ナ形容詞)なので、選択肢3の記述は適当ではありません。
4 「若い」の対義語は「年をとっている」や「老けている」(動詞)なので、選択肢4の記述は適当と言えます。


したがって、正解は4になります。





2020年7月13日月曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題3Aの解説

A【アクセント】

(1)アクセントの機能に関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚アクセントの機能〛P428


(ア)は、日本語教育の知識というより、日本語の語彙力の問題です。「区別」と「弁別」は類義語なので、(ア)で選択肢を1か2の二択に絞れるのではないでしょうか。

 (イ)については、「指示」というのは読んで字のごとく指し示すことで、「指示機能」は「こそあど」(指示代名詞)が持つ機能のことです。

「統語機能」の「統語」は、言語学で「統語論」という分野がありますが、語の配列やまとまりを示す働きのことを言います。


したがって、正解は2になります。


具体的には、アクセントの弁別機能とは、「雨」と「飴」、「箸」と「橋」、「牡蠣」と「柿」などのようにアクセントの違いによって言葉が区別(識別)されることで、

アクセントの統語機能とは、たとえば「今日麩の味噌汁」と「恐怖の味噌汁」は、両方とも同じ音「きょうふのみそしる」ですが、アクセントに違いによって「きょ(高)う(低)ふ(高)」=「今日麩」なのか「きょ(高)う(低)ふ(低)」=「恐怖」なのか理解することができます。このように、どこまでがひとまとまりの語なのかを示す働きをアクセントの統語機能といいます。

ちなみに、赤本には「にわとり」(「2羽鳥」と「鶏」)の例が挙げられています。他にどういうものがあるか自分で考えてみるとよろしいかと思います。





 


(2)アクセントの「超分節的特徴」に関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚イントネーション〛P434


難しい知識に関する問題です。問われている用語「超分節的特徴」も難しいし、正解となる選択肢の「フォルマント」も難しい・・・・

で、フォルマントの意味を調べてみると、以下のようにさっぱり意味が分かりません。


(世界大百科事典 第2版より)

声道(声門から上の咽頭、口腔、鼻腔を含む部分)内の空気の共鳴周波数に対応する倍音群。母音や鼻音、流音は舌や顎を移動させて声道の形を変えることにより独自の共鳴室をつくる。こうした共鳴室に応じて母音は三つの固有の倍音すなわちフォルマントをもつ。音声分析装置ソナグラフにより図示されたソナグラムには、周波数の縦軸に沿って3本の濃い線が現れる。これを下から第1、第2、第3フォルマントと呼ぶ。重要なのは第1フォルマント(F1)と第2フォルマント(F2)であって、これらが母音の音質を決定する。

どうやら音声学の用語らしいですが、この問題の狙いは、「フォルマント」という言葉の意味を知っていないといけないというより、その他の選択肢(イントネーション、リズム、ポーズ)が「超分節的特徴」であることを知っていないといけない、つまり消去法で「フォルマント」を選ぶ、そんな感じなのではないでしょうか。


で、「超分節的特徴」とは、子音や母音などの分節音とは異なり、語に付属して決まるアクセントや、文に付属して決まるイントネーションのように、個々の分節音を超えた音連続に関係する特徴のことで、アクセントやイントネーションの他、リズム、ポーズ、速さ、プロミネンスなどを指すようです。


説明を読んでも、分かったような分からないような・・・・いずれにしても難しい問題です。


ちなみに、他の選択肢については以下の通りです。





📌攻略のポイント
⦿私の中ではこの問題は捨て問題です。日本語教育能力検定試験の合格ラインは7割です。マークシートだけで220問あるので、60問は間違えられます。100点を採る必要はありません。

つまり、全ての問題を理解しようとする必要はないということです。

僅かな難しい問題や苦手な項目の勉強に頭を悩ませて時間を割くぐらいなら、苦手意識が少なく勉強しやすい項目を優先的に勉強して確実に得点できるようになることを心がけましょう。




(3)「強弱アクセント」の言語に関する問題


問題文にあるように、アクセントは「高低アクセント」と「強弱アクセント」に大別されます。






で、選択肢の中で強弱アクセントなのはポルトガル語なので、正解は4になります。


この問題は知っていない正解できません。では、世界中のすべての言語について高低アクセントか強弱アクセントかを知っていなければならないかと言えば、そうではないでしょう。

日本語教師になるうえで、知っておかなければならない言語の特徴だけ押さえておけばよろしいのではないでしょうか。

たとえば、今回問われたポルトガル語は、日本に多く住んでいる日系ブラジル人の母語として出題されたものかと思われます。


2019年度の試験Ⅰの問題3Aの(5)では、ベトナム語を選ぶ問題も出題されていますが、それはベトナムが近年では最大の送り出し国であり、日本語学習者の数も増えているからだと考えられます。


ということは、2020年度はネパール語が問われるかもしれません。ネパール語の特徴を押さえておくことをオススメします。




(4)「標準語(全国共通語)のアクセント」に関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚日本語のアクセントの特徴〛P427~433


この(4)と次の(5)はともにアクセントの型に関する問題です。「型」というのは分かりやすく言い換えると「パターン」のことで、日本語には4つのアクセントの型がありますが、その前に「アクセントの滝」と「アクセントの核」について確認しておきましょう。






では、それぞれの選択肢の内容を見ていきましょう。


1 漢語名詞のアクセントは語末から3拍目で下がることが多いのかどうか、実際にいくつかの漢語名詞を挙げて検証してみましょう。ちなみに、3拍目で下がるということは、アクセントの型でいうところの中高型になります。

・勉強・・・べ(低)、ん(高)、きょ(高)、う(高) → 平板型で3拍目で下がらない。
・日本・・・に(低)、ほ(高)、ん(低) → 中高型で3拍目で下がる。
・日本語・・・に(低)、ほ(高)、ん(高)、ご(高) → 平板型で3拍目で下がらない。
・中華・・・ちゅ(高)、う(低)、か(低) → 頭高型で2拍目で下がる。3拍目では下がらない。
・中華料理・・・ちゅ(低)、う(高)、か(高)、りょ(高)、う(低)、り(低) → 中高型で5拍目で下がる。3拍目では下がらない。
・教科書・・・きょ(低)、う(高)、か(高)、しょ(低) → 中高型でも3拍目では下がらない。4拍目で下がる。
・黒板・・・こ(低)、く(高)、ば(高)、ん(高) → 平板型で3拍目で下がらない。

以上のことから、選択肢1の記述は適当ではないことが分かります。


2 複合名詞のアクセント型が後部要素によって決まることが多いのか、実際にいくつかの複合名詞を挙げて検証してみましょう。

・雨具・・・あ(低)、ま(高)、ぐ(低) → 中高型
・雨戸・・・あ(低)、ま(高)、ど(低) → 中高型
・雨樋・・・あ(低)、ま(高)、ど(高)、い(高) → 平板型
・雨粒・・・あ(低)、ま(高)、つ(高)、ぶ(低) → 中高型
・雨空・・・あ(低)、ま(高)、ぞ(高)、ら(高) → 平板型
・雨傘・・・あ(低)、ま(高)、が(高)、さ(高) → 平板型
・雨雲・・・あ(低)、ま(高)、ぐ(高)、も(高) → 平板型
・雨乞い・・・あ(低)、ま(高)、ご(高)、い(高) → 平板型
・雨降り・・・あ(低)、め(高)、ふ(高)、り(低) → 中高型
・雨粒・・・あ(低)、め(高)、つ(高)、ぶ(低) → 中高型
・雨風・・・あ(低)、め(高)、か(低)、ぜ(低) → 中高型

前部要素の「雨」は「あま」でも「あめ」でもすべて低高。一方の後部要素は、「空」は単独では「そ(高)、ら(低)」なのに「雨空」になると「ぞ(高)、ら(高)」、「傘」は単独では「か(高)、さ(低)」なのに「雨傘」になると「が(高)、さ(高)」となるなど、複合名詞になると後部要素のアクセントが変わることがあるので、

選択肢2の記述は適当と言えそうです。

今回は、前部要素が「雨」の複合名詞しか取り上げていませんが、他の複合名詞でも同じことが言えるのか確認しておくべきでしょう。


3 たとえば「気」と「木」で考えてみると、「気が付く」は「き(低)、が(高)」で平板型ですが、「木が(倒れる)」は「き(高)、が(低)」で頭高型になるので、選択肢3の記述は適当ではないと判断できます。

4 平板型は転ぶ、燃やす、変える、消える、など。中高型は、食べる、歩く、走る、泳ぐ、など。頭高型は、通る、通す、入る、帰る、返す、など。以上、3拍動詞の辞書形のアクセント型は3種類だけのようです。


したがって、正解は2になります。




(5)「日本語の方言」のアクセントに関する問題


この問題は分かりません。正解が4ということなので、無アクセントは東北・関東・九州などの一部地域に分布しているということらしいです。

1 近畿地方では語頭が高高で始まるアクセント型の名詞は存在するそうです。
2 一つの語に複数のアクセント型を有する方言もあるそうです。
3 名詞のアクセント型の種類数は方言間で異なっているそうです。


私の中でこの問題は捨て問題です。間違ってもいい問題数、安全を見て60問のうちの1問です。

こういう問題があと60問あっても合格することができるわけですから、楽勝です。

2020年7月11日土曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題2の解説

(1)「気候」が「拮抗」と聞こえてしまう誤用

📖赤本(第4版)関連箇所:〚拍(モーラ)〛P103,P399-400,P426


「気候」と言っているつもりなのに、「拮抗」と聞こえてしまうのは、拍に関わる誤用です。





たとえば、「ティッシュペーパー」は、「ティ・ッ・シュ・ペ・ー・パ・ー」は7拍となる。

「気候」は「き・こ・う」で3拍、「拮抗」は「き・っ・こ・う」で4拍となります。


1 「暇」は「ひ・ま」で2拍、「居間」は「い・ま」で2拍となります。選択肢1は拍に関わる誤用ではなく、「ひ」と「い」の発音に関わる誤用です。

2 「西」は「に・し」で2拍、「日誌」は「に・っ・し」で3拍となります。よって、選択肢2は「気候」が「拮抗」と聞こえてしまうのと同様に拍に関わる誤用です。

3 「渡航」は「と・こ・う」で3拍、「登校」は「と・う・こ・う」で4拍となります。よって、選択肢3は「気候」が「拮抗」と聞こえてしまうのと同様に拍に関わる誤用です。

4 「今日」は「きょ・う」で2拍、「器用」は「き・よ・う」で3拍となります。よって、選択肢4は「気候」が「拮抗」と聞こえてしまうのと同様に拍に関わる誤用です。


したがって、正解は1になります。




(2)「~一緒に食べろう」という誤用


正しくは「食べよう」です。半母音の「よ」の音が、弾き音の「ろ」の音になってしまっているので、調音法に関わる誤用といえます。









1 「信じう」が「信じう」になってしまっているので、設問と同様に調音法に関わる誤用といえます。
2 「植えよう」が「植えろう」になってしまっているので、設問と同様に調音法に関わる誤用といえます。
3 「考えよう」が「考えろう」になってしまっているので、設問と同様に調音法に関わる誤用といえます。
4 「出来るだろう」が「出来ろう」になってしまっているので、調音法に関わる誤用とは言えません。活用の仕方に関わる問題と言えます。


したがって、正解は4になります。




(3)「カレーを作っているという匂い~」という誤用


正しくは「カレーを作っているという匂いがします」となるでしょう。


1 正しくは「家族でキャンプをしているという写真を部屋に飾ります」となるでしょう。
2 正しくは「私は10年前から東京という首都に住んでいます」となるでしょう。
3 正しくは「部屋のどこかから水が流れるという音がするんです」となるでしょう。
4 正しくは「先週から喉がちくちくするという痛みがあります」となるでしょう。


したがって、正解は2になります。




(4)「~たいてい8割くらい~」という誤用


正しくは「だいたい8割くらい」となるでしょう。学習者は、頻度や確率で用いられる「たいてい」と、数量や割合で用いられる「だいたい」を混同しているものと思われます。


1 正しくは「だいたい1時間ぐらい」であり、「たいてい」と「だいたい」の混同による誤用と言えます。
2 正しくは「だいたい全員」であり、「たいてい」と「だいたい」の混同による誤用と言えます。
3 正しくは「たいてい忘れてしまう」もしくは「忘れてしまうことがよくある」であり、頻度を表す「たいてい」と「よく」を重複して使用していることによる誤用と言えます。
4 正しくは「だいたい何グラム」であり、「たいてい」と「だいたい」の混同による誤用と言えます。


したがって、正解は3になります。




(5)「~に行く前、~を終わらせよう」という誤用


正しくは「買い物に行く前、洗濯を終わらせよう」となるでしょう。

1 正しくは「結婚する前、私の両親に会ってもらいたい」となるでしょう。
2 正しくは「騒ぎが収まるまで、おとなしくしていよう」となるでしょう。
3 正しくは「ご飯を食べる前、この薬を飲む必要がある」となるでしょう。
4 正しくは「彼が来る前、この話の結論を出そう」となるでしょう。


したがって、正解は2になります。

2020年7月10日金曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題1(11)~(15)の解説

(11)「こと」の用法に関する仲間外れ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚形式名詞〛P34


「こと」のように、具体的な意味に欠け、単独では主語や述語になれず、連体修飾を受けて使われる名詞のことを形式名詞といいます。「こと」以外にも、「の」「ところ」「もの」「ふり」「はず」「ため」「ほう」「とき」「つもり」「わけ」などがあります。


各選択肢の形式名詞「こと」がどのような意味で使われているのか考えてみましょう。


1 「イライラしないことだ」は、「イライラすべきではない/イライラしないことが肝心だ」という意味で勧告や忠告を表わしています。

2 「断定しないことだ」は、「断定すべきではない/断定しないことが肝心だ」という意味で勧告や忠告を表わしています。

3 「しっかり働くことだ」は、「しっかり働くべきだ/しっかり働くことが肝心だ」という意味で勧告や忠告を表わしています。

4 「一生懸命努力することだ」は、「一生懸命努力すべきだ/一生懸命努力することが肝心だ」という意味で勧告や忠告を表わしています。

5 「残念なことだ」は、「残念だなあ/残念なことだなあ」という意味で感動や詠嘆を表わしています。勧告や忠告を表わす使い方ではありません。


したがって、正解は5になります。





(12)「~直す」の用法に関する仲間外れ問題


各選択肢の「~直す」の意味を考えてみましょう。


1 「勉強し直す」は、「もう一度勉強する」という意味です。

2 「見直す」は、「もう一度見る」という意味ではありません。「それまで気づかなかった価値を認めて、評価を高く改める」という意味です。

3 「書き直し(書き直す)」は、「もう一度書く」という意味です。

4 「やり直し(やり直す)」は、「もう一度やる」という意味です。

5 「撮り直し」は、「もう一度撮る」という意味です。


したがって、正解は2になります。




(13)比喩に関する仲間外れ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P129


比喩とは、意味的に近い語や類似した語を別のカテゴリーに用いることです。赤本(P129)では、「晴れ」や「曇り」という語を使って以下のように説明しています。


「晴れ」や「曇り」は「天気」のカテゴリーを越え、「晴れ晴れとした気分」や「曇った表情」などのように人間の心情や表情にも拡張して用いられる。このような意味の拡張を引き起こすものの1つが比喩である。

人間の明るい心情や暗い表情を、天気の「晴れ」が持つ明るさと、「曇り」が持つ暗さとを類似させて表現している、というわけです。


比喩には主に4つの種類があります。



 


換喩(メトニミー)の例

・「漱石を読む」→漱石が書いた小説を読む、ということ。
・「鍋を食べる」→鍋の中身を食べる、ということ。
・ 「テレビがうるさい」→テレビから出る音がうるさい、ということ。

⦿提喩(シネクドキー):上位概念で下位概念を指したり、下位概念で上位概念を指すこと。
 

提喩(シネクドキー)の例

・「お茶にしない?」→何か飲み物を飲まない?という意味であり、下位概念の「お茶」で上位概念の「飲み物」を指している。

・「卵買ってきて」→「卵」は鶏の卵のことであり、上位概念の「卵」で下位概念の「鶏の卵」を指している。


それでは選択肢を見てみましょう。


1 「~は我が社には追い風だ」の「追い風」は隠喩になります。
2 「漱石は難しい」の「漱石」は、「漱石が書いた作品(小説)」のことを示しているので換喩(メトニミー)になります。
3 「洗濯機を回す」の「洗濯機」は、「洗濯機の洗濯槽」のことを示しているので換喩(メトニミー)になります。
4 「黒板を消す」の「黒板」は、「黒板に書かれたもの」のことを示しているので換喩(メトニミー)になります。
5 「永田町は(中略)大騒ぎ」の「永田町」は「永田町がその中心になっている政治」のことを示しているので換喩(メトニミー)になります。


したがって、正解は1になります。




(14)応答詞の用法に関する仲間外れ問題


各選択肢の「はい」の意味を考えてみましょう。


1 「~至急お願いします」「(はい)わかりました」
2 「~飲んでください」「(はい)わかりました」
3 「土足で入らないで」「(はい)わかりました」
4 「お荷物はこちらですね」「(はい)そうです」
5 「よろしく頼んだぞ」「(はい)わかりました」


したがって、正解は4になります。




(15)結果の評価に関する仲間外れ問題


「・・・」の部分に、どのような内容が来るか考えてみましょう。


1 (中略)~してしまったおかげで・・・ この後には悪い結果がきます。
2 (中略)~を聞いたばかりに・・・ この後には悪い結果がきます。
3 (中略)~努力に努力を重ねたことで・・・ この後には良い結果がきます。
4 (中略)~に従ったせいで・・・ この後には悪い結果がきます。
5 (中略)~を信じたために・・・ この後には悪い結果がきます。


したがって、正解は3になります。

2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題10の解説

問1 エラーとミステイクの説明の組み合わせとして適当なものを選ぶ問題   📖赤本(第4版)関連箇所:P281 ミステイクとエラー、さらにエラーの下位分類であるグローバル・エラーとローカル・エラーは、超重要ワードなので、もし、それらの違いをきちんと理解できていないのであ...