2020年8月3日月曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題9の解説

問1 「適性処遇交互作用」の説明として最も適当なものを選ぶ問題


こういう問題が文脈から解く典型的な問題です。

よく日本語教育能力検定試験問題を解説したもので、「適性処遇交互作用」の意味を説明して、だから答えは3というような説明をしているものが数多く見受けられますが、

この問題が、赤本にも出てこない「適性処遇交互作用」という用語を知っていないと解けない問題だとしたら、何を勉強すればいいのでしょう?どこでこの用語のことを知ることができるのでしょう?


日本語教育能力検定試験はただ単に知識の量を問うものではないので、こういった頻出度の少ない難しい用語については、その用語を知らなくても文脈から解けるようにできているんです。


では解説していきます。


問われている下線部A「適性処遇交互作用」の文は、「しかし」という逆説で前の文から接続されています。

「(外国語学習に必要な認知能力を調べる)言語適性の研究は、学習の成否を予見することを目的として始まった」けど、今は違うという、という文脈です。

で、どう変わったかというと、

「適性処遇交互作用の観点を踏まえ、習得過程と適性との関わりという視点で研究が進んでいる」。


つまり「適性処遇交互作用の観点」=「習得過程と適性との関わりという視点」ということです。

「習得過程」は、学習者がどのように習得していくかという学習方法(教授方法)のことで、
「適性」は、学習者に合っているかどうかということなので、


その内容に合致した選択肢は、「学習者の適性に合った教授法で指導を行うと、より高い指導効果が期待できる」(選択肢3)ということになります。


この問題文は「第二言語習得の成否に関わる要因」、つまり、第二言語の習得が上手くいくかいかないかの要因について述べているので、選択肢1,2の「学習者の適性が変化する」というのは文脈とはまったく関係ない内容ということになります。

選択肢4については、「『習得過程』と『適性との関わり』」(問題文3行目)というのは、その勉強の仕方/教え方が学習者に合っているかということであり、「学習者の習得状況に合った指導」という意味ではありません。


したがって、正解は3になります。




問2 「認知スタイル」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚学習スタイル〛P287-288


選択肢1と2の「場依存型」と「場独立型」については、赤本にも以下のように記載してあります。

(赤本P288からの抜粋)
場独立型の学習者は、個々の要素をそれぞれ独立したものとして捉えることが得意なため、文法学習などの形式中心の学習に優れていると考えられる。対して、場依存型の学習者は、個々の要素を周囲のものとの関連で捉えようとする傾向があるため、コミュニケーションの領域で能力を発揮するのではないかと言われている。



このことから、選択肢1と2の記述は互いに逆で、1が「場独立型」で、2が「場依存型」の説明であることが分かります。


選択肢3と4の「順序型」と「全体型」については、知っていないとどちらが正解か判断することができませんが、不幸にも、赤本には載っていません。

落としてもいい3割(60問)のうちの1問だと思って割り切っていきましょう。


以下の論文(東京未来大学の「子どもの認知能力と‐」)によると、https://www.tokyomirai.ac.jp/research_report/essay/pdf/3-4.pdf#search=%27%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%AB+%E9%A0%86%E5%BA%8F%E5%9E%8B%27 >  


順序型(継次処理のタイプ)とは、一つ一つ順序立てて情報を処理するタイプで、
全体型(同時処理のタイプ)とは、全体を一度に見渡せる形で情報を処理するタイプ

とのことです。

選択肢3の記述は、上記の論文の説明とは異なる内容であるため、適当とは言えません。
一方、選択肢4の記述は、同論文と合致した内容であるため、適当と判断できます。


したがって、正解は4になります。




問3 「学習ストラテジー」の直接ストラテジーの例として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚学習ストラテジー〛P288-289


学習ストラテジーについては、赤本にバッチリ出てくる重要事項ですので、この問題は確実に正解しておきたいところです。


(言語)学習ストラテジーとは、赤本P288の説明にある通り、「学習をより易しく、より早く、より楽しく、より自主的に、より効果的に、かつ新しい状況に素早く対処するために学習者がとる具体的な行動」です。

学習ストラテジーには、学習に直接関わる直接ストラテジーと、学習の環境を整えたりモチベーションを上げるなど学習を間接的に支える間接ストラテジーの2つに分かれ、それぞれが持つ3つの下位分類は以下の通りです。





1 友達を作ったり、サークルを作ったりして一緒に勉強するのは、間接ストラテジーの「社会的ストラテジー」です。

2 学習計画の立案や自己評価によって、学習を自ら管理するのは、間接ストラテジーの「メタ認知的ストラテジー」です。

3 習ったことをまとめたり、繰り返し練習したりするのは、直接ストラテジーの「記憶ストラテジー」です。

4 自分を励ましたり、勇気づけたりして不安を抑えるのは、間接ストラテジーの「情意ストラテジー」です。


したがって、正解は3になります。




問4 「不安」を軽減するための教室作りの方法として適当なものを選ぶ問題


この問題は選択肢をひとつずつ吟味していけば分かるのではないかと思います。


1 競争心を刺激することは、周囲を勝負する競争相手(ライバルや敵)と見なすことになるので、不安が軽減するどころか、より緊張した状況になるのではないでしょうか。よって、選択肢1は、不安を軽減するための教室作りの方法として不適当だと思われます。

2 成功体験を積ませることは、学習者の自信に繋がるので、不安を軽減するための教室作りの方法として適当と考えられます。

3 学習者が不安の兆候を認識できたり、どのようなときに不安になるのか意識することができれば、ある程度は不安に備えたり対処できると思いますので、選択肢3は、不安を軽減するための教室作りの方法として適当と思われます。

4 選択肢4の内容は選択肢2の内容とほぼ同じで、学習者がよく理解できていて、答えがはっきりしている項目をテストすることは、学習者の自信に繋がるので、不安を軽減することができると思われます。 


したがって、正解は1になります。




問5 「内発的動機づけ」を促すものとして適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚内発的動機付けと外発的動機付け〛P285-286


内発的動機付けとは、学習者の内側から湧き起ってくる、おもしろい、興味があるといった学習そのものが動機になることで、

外発的動機付けとは、学習そのものではなく、報酬を得るためなどの外部要因が動機になることです。


1 外部(他者)から勧められているわけですから、外発的動機付けになります。
2 学習そのものではなく、試験合格という外部要因によるものなので、外発的動機付けになります。
3 学習そのものではなく、外部からの利益が動機になっているので、外発的動機付けになります。
4 クラスメートと協働的に学ぶことは、外部(他者)から勧めれたわけでもなく、外部から受ける利益によるものでもなく、学ぶことそのものが動機となっているので、内部的動機付けになります。


したがって、正解は4になります。



内発的動機付けが学習の効果に期待できるという話は、なにも日本語学習者に限った話ではありません。日本語教育能力検定試験の勉強にも言えることです。

合格への近道は、検定の勉強に興味を持つこと、楽しいと思うこと、つまり内発的動機付けを高めらることに他ならないわけです。




2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題10の解説

問1 エラーとミステイクの説明の組み合わせとして適当なものを選ぶ問題   📖赤本(第4版)関連箇所:P281 ミステイクとエラー、さらにエラーの下位分類であるグローバル・エラーとローカル・エラーは、超重要ワードなので、もし、それらの違いをきちんと理解できていないのであ...