2020年7月30日木曜日

2018年度(平成30年度)日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題8の解説

問1 「文化化」の説明として適当なものを選ぶ問題


この問題は文脈から解くことができる問題です。

まず問題文の1文目で、「異文化接触」の説明をしています。
「異文化接触とは、ある程度の文化化を経た人が、他の集団やその成員と行う相互作用のことである」と。


続く2、3文目では、異文化接触によって引き起こされる「カルチャー・ショック」の説明をしています。
「人は通常、自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を意識することは少ない。そのため、異文化に接触したときには、カルチャー・ショックという心理的反応を経験する人が多い」


2、3文目を、もう少し言葉を補いながら詳しく読み解くと以下のようになります。

「人は通常、自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を意識することは少ない。しかし、異文化に接触すると、自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を意識するそのため、カルチャー・ショックという心理的反応を経験する人が多い」


自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を意識することによりカルチャー・ショックを経験する、ということは、

カルチャー・ショックを経験する人は、自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を身に付けた人ということが分かります。


もうお気づきでしょうか?


実は、1文目と2,3文目は対応した内容になっているわけです。


つまり、「自分の所属する社会における価値観や文化的特徴を身に付ける」ことが「文化化」に対応する内容であり、

これと同じことを言っている選択肢は、4以外にはありません。

したがって、正解は4になります。





問2 「カルチャー・ショック」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P248-250


カルチャー・ショックとは、異文化と接触したとき、自分化との違いに衝撃を受けることをいいます。衝撃を受けたあとは、以下の4つの段階を経て、新しい習慣が受け入れられるようになるとされています。


⦿ハネムーン期:異文化接触の初期段階。景色や食べ物など何もかもが新鮮で、高い期待感と希望に満ち溢れている心理状態の時期。
⦿ショック期:ハネムーン期の興奮状態がおさまってくると、新しい文化や習慣に敵対心を持ったり、期待感が失望感に変わり焦燥感などにかられる状態の時期。
⦿回復期:ショック期の落ち込みを克服し、新しい文化や習慣に順応していく時期。
⦿安定期:新しい文化や習慣を受け入れ、精神的にも安定し異文化理解が進む時期。


1 精神的に高揚した状態は、カルチャー・ショックの初期段階であるハネムーン期だけです。ショック期は落胆・消沈した状態で、回復期はショック期の落胆・消沈した状態から徐々に立ち直っている状態で、安定期は精神的に安定した状態なので、選択肢1の記述は適当ではありません。

2 精神的に落ち込んでいるショック期などは、ストレスから食欲がなくなったり、眠れなくなったり、お腹を下したり、円形脱毛症になったり、何かしらのアレルギーが発症したりすることも考えられるでしょう。よって、選択肢2の記述は適当だと考えられます。

3 自国でも、地域が異なれば方言もありますし、気候が違えば生活様式や食習慣も異なります。自国内でもあっても地域によって様々な文化がありますので、カルチャー・ショックを経験することはあるでしょう。よって、選択肢3の記述は適当ではありません。

4 カルチャー・ショックは4つの段階があることから分かる通り、瞬間的な心理的反応ではありません。よって、選択肢4の記述は適当ではありません。









問3 「Wカーブ」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P249


カルチャー・ショックの「Uカーブ」とは、ハネムーン期、ショック期、回復期、安定期における心理的適応度をグラフで表わすとU字を描くというもので、U字曲線とも言うものです。

「Wカーブ」というのは、異文化の生活に慣れた後、自文化の生活に戻ると、自文化に対して、異文化に接触したときと同様のカルチャー・ショックを経験することがあります。これはリエントリー・ショックまたは逆カルチャー・ショックと言われるもので、

先のUカーブとリエントリー・ショックによるUカーブを合わせると、W字の形状になるので、これをWカーブまたはW字曲線と言います。







1 たとえば、海外での生活を経験したことで、「日本ってこんなに住みにくい/生活しにくい国だったの!?」ってショックを受けることも少ないのではないでしょうか。サラリーマンなどで海外駐在などをした結果、会社を辞めて駐在先の国に移住してしまう人も少なくありませんが、(駐在から)帰国後のショックが大きかった人が、そうなる可能性が高いのではないでしょうか。

2 異文化でショックを受け、回復する前に帰国しさらにショックを受ける・・・・これは「Wカーブ」というより「Wショック」でしょう(※「Wショック」という語が正式な用語としてあるかどうかは知りません)。多分、異文化でショックを受け、異文化に馴染む前に帰国するのであれば、「日本に帰ってこられてよかった」となるわけで、さらにショックを受けるということにはならないでしょう。

3 「Uカーブ」や「Wカーブ」は、周囲との接触の度合いを示したものではありません。

4 「異文化から帰国した後の適応の段階を示したもの」は、リエントリ・ショックが表すUカーブであって、Wカーブではありません。


したがって、正解は1になります。






問4 「文化変容(acculturation)」の一つのタイプである「分離(separation)」の説明として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P327


ベリー(J.W.Berry)によって分類された、異文化接触によって起こる個人レベルの文化変容(acculturation)の4つのタイプは、以下の通りです。






1 変化が小さいのは、自文化的アイデンティティを保持する「統合」と「離脱(分離)」で、そのうち、自文化に閉じこもっている状態なのは、周囲と良好な関係を築かない「離脱(分離)」なので、選択肢1は「分離(separation)」の説明として適当と言えます。

2 文化的・心理的に異文化の受容が最も大きい状態なのは、自文化的アイデンティティを捨て去って異文化に同調し、周囲との良好な関係を築く「同化」です。

3 自文化と異文化の間で葛藤している状態なのは、自文化的アイデンティティを保持するわけでもなく、相手と良好な関係を築くわけでもない「境界化(周辺化)」です。

4 自文化を保つのは「統合」と「離脱(分離)」で、そのうち異文化を受入ている状態なのは周囲と良好な関係を築くことができる「統合」です。


したがって、正解は1になります。




問5 「ソーシャルサポート」に関する記述として不適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P255


ソーシャル・サポートとは、社会の中で周りの人々から受ける物質的、心理的支援のことで、次の4つに分類することができます。

⦿道具的サポート:学習者に対してテキストや筆記用具を提供するなどの物質的な援助のこと。
⦿情緒的サポート:悩みを聞いてあげたり、勇気づけてあげたりするなどの感情面での解決を助けてあげること。
⦿情報的サポート:問題解決のために必要な情報やアドバイスを提供すること。
⦿評価的サポート:相手に対する肯定的な評価を与えて励ますこと。


1 たとえば、学習者が道具的サポートを求めているのに、情緒的サポートを与えても、あまり学習者のためにはなりません。学習者が悩んでいるときは情緒的サポート、情報を欲しがっているときは情報的サポートをすることが、学習者に対しての効果的なサポートと言えます。よって、選択肢1の記述は不適当ではない(適当)と言えます。

2 被支援者のストレスが強すぎる場合とは、引きこもりや鬱に近い状態でしょうか。被支援者のストレスが強すぎて周囲にまったく心を開いてくれなければサポートの範囲や効果も限られたものになると思われます。そのような場合には精神科に診てもらうか、異文化から抜け出す(自文化に戻る)べきなのではないでしょうか。よって、選択肢2の記述は不適当ではない(適当)と思われます。

3 被支援者のストレスのタイプによって、道具的サポートと情緒的サポート、情報的サポート、情報的サポート、評価的サポートを使い分けるべきと思われるので、被支援者のストレスのタイプによってサポートの内容を変える必要があるとする選択肢3の記述は不適当ではない(適当)と言えます。

4 同じような悩みを抱えた者であれば的確なサポートができるかもしれませんし、お互いにサポートしあえる関係になって困難の解決が促進される可能性もあるのではないでしょうか。よって、「被支援者と同じような困難を抱えた者からのサポートは避けたほうがよい」という選択肢4の内容は不適当と考えられます。


したがって、正解は4になります。






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