2020年6月8日月曜日

2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題3Aの解説

【気流】

(1)「日本語の音声」に関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚母音の分類〛P402、〚子音の分類〛P404、〚調音法〛P407


何が問われているのか、問題文の意味から理解していきましょう。

「弁別」とは、物事の違いを見分けること、識別することです。

べん‐べつ【弁別(辨別】〘名・他サ変〙物事の違いを見分けること。識別。「是非善悪を──する」 (大修館書店『明鏡 国語辞典』第二版)

つまり、日本語の音声は何によって識別されるのか、識別する要素ではないものを選べという問題です。


☞超重要絶対暗記 《日本語の母音の音の違いを決める要素》
⦿舌の高さ(口の開き具合)
⦿舌の前後の位置
⦿唇の丸め(突き出し)の有無


☞超重要絶対暗記 《日本語の子音の音の違いを決める要素》
⦿声帯振動の有無(有声音・無声音)
⦿調音点:息を妨害する場所(両唇・歯茎・歯茎硬口蓋・硬口蓋・軟口蓋・声門)
⦿調音法:息を妨害する方法(鼻音・破裂音・摩擦音・破擦音・弾き音・半母音)


選択肢を見てみると、1~3は調音法によって弁別される日本語の音声ですが、吸着音という音声は日本語にはありません。


したがって、正解は4になります。


「吸着音」は、赤本には出てこない音声であり難易度が高い用語と言えますが、それ以外の選択肢の用語(音声)はそれ程難易度が高いものではありません。難しい選択肢に惑わされることなく自信をもって正解を選びましょう。


ちなみに「吸着音」とは、三省堂『大辞林』第三版によると

舌打ちをするようにして作られる言語音。肺とは無関係に、口腔だけで調音される点に特徴がある。アフリカの諸語によく観察される。舌打ち音。クリック。


舌打ちのような音声ということなので、検定に合格するまでは、「舌打ち」のことは「吸着音を発する」と言うようにしましょう。


例)「舌打ちするなよ」 → 「吸着音を発するなよ」


これでもう忘れないでしょう。




(2)「声門」に関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚声帯振動の有無〛P401、〚子音の分類〛P404、〚有声音・無声音〛P404


この問題は、検定の典型的なタイプの問題です。良く言えば「うまい」問題、悪く言えば「いやらしい」問題。


選択肢を読んだときに、

「ささやき声を発するとき、声門とか声帯がどうなってるかなんて知らねえよ」
「息を吸うときのことなんて、赤本には載ってたっけ!?」
「ってか、息もれ声って何だよ?」

って動揺してしまったら、出題者の思うつぼです。


なぜならば、実はこの問題を解くのに、「ささやき声」や「息を吸うとき」、「息もれ声」などの知識は全く必要ないからです。


この問題で問われているのは、ずばり

①有声音と無声音について理解しているかどうか
②声帯と声門について理解しているかどうか

です。



☞超重要絶対暗記 《有声音と無声音》
⦿有声音とは、声帯の振動を伴った音。
⦿無声音とは、声帯の振動を伴わない音。



では、声帯が振動するとはどういう状態なのでしょうか。


喉についているヒダ状のものが声帯です。その声帯によって空気の通り道を狭めると、その狭い通り道を空気が通るときに声帯は振動するようになります。


窓を開けたときに、窓を全開にすれば窓がカタカタ鳴ることはありませんが、窓をほんの少しだけ開けた状態にしていると、その狭い隙間から勢いよく風が入ってきて窓がカタカタ鳴りますよね。

それと同じです。


この場合、隙間を作っている(狭めている)窓が声帯で、窓によって作られた隙間が声門に当たります。


このことさえ理解できていれば、この問題は解くことができます。



1 有声音は、閉じた声門を呼気が通る勢いで声帯が振動して発せられる音なので、選択肢1の記述は適当です。

2 「ささやき声」に動揺してはいけません。問題はそのあとに続く内容です。声門が開いていれば声帯は振動しません。よって、選択肢2の記述は誤りです。

3 「息を吸うとき」に動揺してはいけません。問題はそのあとに続く内容です。声門が閉まっている状態で息を吸い込んで空気を通そうとすれば、声帯は振動するでしょう。よって、選択肢3の記述は誤りです。

4 「息もれ音」に動揺してはいけません。問題はそのあとに続く内容です。「声門が大きく開いていて声帯が振動していない」のは無声音です。よって、選択肢4の記述は誤りです。


したがって、正解は1になります。


ちなみに、参考までに「息もれ音」がどういう音なのか調べてみたところ、声門が少し開いた状態で声帯がゆるく振動した音とのことでした。有声音の弱ーーい感じなんでしょうか。



   
 (3) 「調音」に関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚調音点〛P405、〚調音法〛P407、〚音声記号〛P412、〚子音の発音〛P418


この問題は、実は(1)と同じ問題です。選択肢は調音点調音法の組み合わせの形になっているため、(1)より難しい印象を受けますが、「ふるえ音」というのが、「べらんめえ口調」のような音ということが分かっていれば、一瞬で、選択肢2が日本語の共通語にないものだと気づくことができます。


したがって、正解は2になります。 


ちなみに、それぞれの選択肢が表す音は以下の通りです。

1 両唇破裂音 :パ行、バ行
3 硬口蓋接近音:ヤ行
4 声門摩擦音 :ハ、ヘ、ホ




(4)母音と子音の違いに関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚母音と子音〛P401、〚母音の分類〛P402、〚子音の分類〛P404


☞超重要絶対暗記 《母音と子音》
⦿母音:息(気流の流れ)を妨げず、音を響かせる口の中の容積や形の違いによって音を変える。
⦿子音:息(気流の流れ)を妨害して作る音で、妨害する口の中の位置(調音点)と妨害する方法(調音法)によって音を変える。


1 母音は気流の流れを妨げない音なので、「いつ妨げるか」とする記述は誤り。
2 母音は気流の流れを妨げない音なので、「どこで妨げるか」とする記述は誤り。
3 母音は気流の流れを妨げない音なので、「どう妨げるか」とする記述は誤り。
4 母音は気流の流れを妨げない音で、子音は気流の流れを妨げて作る音なので適切。


したがって、正解は4になります。


ちなみに、選択肢2は調音点、選択肢3は調音法の説明だと思われますが、調音点、調音法は子音の発声に関わるものなので、母音と子音の違いに関わるものではありません。




(5)「帯気性」に関する問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚日・韓・英・中の相違点〛P153、〚有気音〛P409上段「破裂が遅れて始まるために・・・・」


帯気性」というのは、気息を伴うか気息を伴わないかということです。つまりこの問題は、有気・無気の対立がある言語はどれかという問題です。


赤本のP153に記載してある通り、「「有気・無気」の対立は、韓国語、中国語にはあるが、日本語、英語にない」ので、選択肢1、3の2択にまでは絞りたいところです。


で、有気・無気の対立があるのは、スペイン語(選択肢1)とベトナム語(選択肢3)のどちらかということになりますが、


有気・無気の対立があるのはベトナム語のようです。したがって、正解は3になります。


「ベトナム語なんて知らないよ」と思う人もいるかもしれませんが、現在、日本にとってベトナムは技能実習生の最大の送り出し国です。在留ベトナム人の数も過去最高を更新し、いま日本で最も増えている外国人がベトナム人なのですから、

「これから日本語教師を目指すんだったらベトナム語の特徴も知っておきましょう」

出題者からのそんなメッセージが聞こえてくる問題と言えます。

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