2020年6月15日月曜日

2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題7の解説

問1 「非同期型」のe-learningの問題点として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚eラーニング〛P207、259


eラーニングについて赤本に記載してあることは、「eラーニング:コンピュータや携帯端末などの情報機器を使用して行う学習」(P259)ということぐらいです。やはり、こういった新しい事柄については弱いので、普段から自ら興味をもってアップデートしておくことが必要です。


同期型と非同期型については、もし知らなかったとしても問題文中にある説明から、それぞれがどういったものかある程度は理解できるのではないでしょうか。


同期型は、問題文に「教師が行う授業をリアルタイムで遠隔地に配信する」とあるので、教室で行う授業のようにみんな決まった時間に受ける授業ということが分かると思います。ただ、eラーニングなので、場所が<教室>ではなく、<パソコンやスマホの前>であればどこでも受けることができるというものです。

一方の非同期型は、リアルタイムではないということです。つまり、インターネット上に上がっている授業の録画動画や教材を見て、自分の好きな時に自分のペースで学習するというものです。


したがって、正解は1になります。


2 インターネットによる教材と従来の紙媒体の教材のどちらが知識を得やすいのかということに関して科学的にはっきりとした結論が得られているのかどうかは分かりません。紙の辞書と電子辞書はどっちがいいかというのと同じで、どちらも一長一短あるので、使い方次第なのではないでしょうか。

3 選択肢の中から正答を選ぶ再認形式の問題であれば、瞬時に正誤判定を得ることができますので、選択肢3の内容は正しくないと言えます。

4 インターネットで繋がっているので、学習状況は容易に把握することができるでしょう。よって、選択肢4の内容は正しくないと言えます。


(参考)https://www.elc.or.jp/keyword/detail/id=135




問2 「反転授業」の説明として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚タンデム・ラーニング〛P257


「反転授業」の説明は赤本には載っていないようですが、超重要ワードですのでしっかり理解しておくようにしましょう。


通常の授業の流れは、

①まず教室で先生が学習項目の講義を行い、学習者はその内容を理解(インプット)する。
②学習者には授業の内容の宿題が課され、家で復讐しながら実際に練習問題を解いてみて(アウトプット)理解を深める。

というものだと思います。通常授業は、教室でインプット→家でアウトプット。


これに対して、反転授業は、

①まず学習者が、家で映像教材などを用いて予習し、学習項目の内容を理解(インプット)する。
②教室の授業では、通常「宿題」として扱われる演習や学習内容に関わる意見交換などを行う(アウトプット)。

というものです。反転授業は、家でインプット→教室でアウトプット。


つまり、インプットとアウトプットの場所が通常授業とは反対になるから反転授業というわけです。


したがって、正解は1になります。


2 Peer Instructing Educationというものでしょうか?赤本には載っていないので、余裕のある人は調べておくといいのではないでしょうか。

3 タンデム・ラーニングの説明だと思います。

4 要するにLL教室を使って行う授業のようなもののことだと思いますが、そのような授業を何という呼び方をするのかは存じません。


☞超重要絶対暗記 《反転授業》
⦿反転授業:以下のサイトに反転授業のメリットとデメリットについて記載されているので、読んでおくといいと思います。

https://benesse.jp/kyouiku/201609/20160902-1.html



問3 「インストラクショナルナル・デザイン(ID)の理論」の一つのADDIEモデルの説明として適当なものを選ぶ問題


残念ながら「インストラクショナルナル・デザイン(ID)」についても、「ADDIEモデル」についても赤本には載っていません。インターネットで調べてみると「ADDIE」というのは、分析(Analysis)・設計(Design)・開発(Development)・実施( Implementation)・評価(Evaluation)の頭文字を取ったもののようなので、それを知っていれば、迷うことなく選択肢3を選べたと思います。


しかし、この問題は決して、それらの用語を知っているかいないかを問うものではありません。というのも、ADDIEについて知らなくても問題文の内容から論理的に答えを導き出すことができるからです。

この問題は単に知識を問うだけのものではなく、読解力をも試しているのだと思います。


 では問題文を読んでみましょう。

「インストラクショナルナル・デザイン(ID)の理論を活用することも有用である。ICT機器の操作性向上により、専門的な知識を持たない日本語教師でもデジタル教材の作成が可能となった」とあります。

「インストラクショナル~」の文と、「ICT機器~」の文は、文脈として繋がっているわけですから、

その2文は、ID理論の活用とICT機器の操作性向上すれば、誰でもデジタル教材を作成できるようになった、

もしくは、ICT機器の操作性向上がID理論の活用を可能にし、それによって誰でもデジタル教材を作成できるようになった、

という風に理解することができます。



1 「情報処理モデル」「学びの支援」云々は、問題文の文脈とは全く関係のない内容です。

2 「教育の目標とする領域を三つに分類して示すもの」は、問題文の文脈とは全く関係のない内容です。

3 「教育・教材の設計プロセスを示すもの」は、「IDの理論を活用すれば、誰でもデジタル教材を作成できる」という問題文の文脈に合致した内容です。

4 「学習者の意欲向上のためのポイント」は、問題文の文脈とは全く関係のない内容です。 


したがって、正解は3になります。


💡解法のポイント
⦿この問題のように、日本語教育能力検定試験には、用語を知らなくても、問題文の文章を読み解くことで正答できる問題が少なくありません。特に、難易度が高そうな用語に関する問題は、慌てずに、問題文に戻ってしっかり読み直すことが重要と言えます。




問4 著作権者に無断で行っても著作権の侵害にならない例を選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P207


赤本の「4.5 著作権」を読んでも、残念ながら著作権について理解することは難しいでしょう。日本語教師を目指すのであれば、著作権に関する書籍を1,2冊読んでおいた方がいいかもしれません。


1 ウェブ上の文章は著作物です。著作物を著作権者に無断で使うことは著作権の侵害になります。

2 URLをSNSにアップする行為、いわゆる“リンクを貼る”ことは著作権の侵害にはなりません。

3 誰かが書いた(考えた)文章や作ったものはすべて著作権で守られる著作物に当たります。著作権は、創作した時点で自動的に発生するので著作権登録などはありません。
ちなみに、極端な話、太郎君が花子ちゃんに送ったラブレターにも自動的に著作権が発生します。この場合、ラブレターの著作権者は、ラブレターを作った(書いた)太郎君になります。したがって、花子ちゃんが、太郎君に無断でそのラブレターをSNSなどにアップすると著作権の侵害になります。

4 ウェブ上の写真やイラストの一部も、著作権者に無断で使用すれば、著作権の侵害になります。


したがって、正解は2になります。




問5 「項目応答理論(IRT)」を用いることで可能になることとして適当なものを選ぶ問題
 
📖赤本(第4版)関連箇所:〚古典的テスト理論〛P240、〚項目応答理論〛P241


項目応答理論に関する赤本の説明は、難しい用語がたくさん使われていて、分かりやすい説明とは言えないと思いますので、簡単にまとめると以下の通りになります。


・客観的な基準で、受験者集団にかかわらず、個人の能力を正しく評価できる。
・どのテストも常に同じ基準で作成される。
・一般的に大規模テストで採用されている。
・本テスト作成前に予備テスト(試行試験)を行い、事前に、小問のひとつひとつについての検証を行う。
・常に客観的で一貫したスケールでの評価であるため、複数のテストの結果と相互比較が可能。


1 受験者ひとりひとりの解答時間は計測しませんので、解答時間を分析するという選択肢1の内容は不適当と言えます。

2 項目応答理論に基づいた他のテストと共通の評価基準で作成されているということであり、異なる複数のテストの難易度を調整するものではありません。

3 一般的に、項目応答理論は大規模試験で採用されており、小規模テスト(小テスト)では古典的テスト理論が採用されています。また、項目応答理論は、本テスト作成前に予備テスト(試行試験)が実施されるので、「初めて使用する」という表現にも違和感があります。

4 項目応答理論に基づく試験は、共通の基準で作成されているため、実施回の異なる他の試験の結果と相互比較することが可能です。


したがって、正解は4になります。


※赤本の項目応答理論の説明の中に出てくる「弁別力」や「パラメータ(変数)」「間隔尺度」「得点等化」「尺度点」という用語も重要ですので確実に押さえておきましょう。

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