2020年6月13日土曜日

2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ問題6の解説

問1 「制限作文アプローチ」の背景にある言語教育の考え方として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚制限作文アプローチ〛P224、〚グアン・メソッド〛P189、〚オーディオ・リンガル・メソッド〛P191、〚コミュニカティブ・アプローチ〛P192、〚ナチュラル・アプローチ〛P193
 

設問だけ見ると非常に難しい問題ですが、それで頭を抱えてしまったら出題者の思うつぼです。なぜなら、問題文をもう少し読み進めれば、下線部Aのあとに、「口頭練習で形成された習慣を強化する目的で・・・・」と記載されてあります。


口頭練習」「習慣強化」というキーワードが表す言語教育の考え方・教授法といえば、オーディオ・リンガル・メソッドに他なりません。


したがって、正解は2になります。


☞超重要絶対暗記 《制限作文アプローチ》
⦿制限作文アプローチ:特定の文型や表現を使って作文させる方法。既習項目の定着と正確に使わせることを目的にした作文形式の文法練習として行われることが多い。


☞超重要絶対暗記 《オーディオ・リンガル・メソッド》
⦿オーディオ・リンガル・メソッド:語や文型を入れ替えて繰り返し口頭練習することで習慣化させるパターン・プラクティス(文型練習)ミム・メム(mim-mem)練習を使用する教授法。




問2 設問に示すパターンを用いた練習は、どのような機能の指導を目的としたものかを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚前方照応〛P145


レトリック・アプローチ」という考え方は赤本には記載されていませんが、問題文にあるレトリック・アプローチの説明と設問に示されたパターンから、レトリック・アプローチがどのようなものか理解することができると思いますし、正解も導き出せるのではないかと思います。


「AとBは・・・・」「Aは・・・・。一方、Bは・・・・。」
AとBを対照させて比較しているパターンと言えるので、正解は2になります。


💡解法のポイント
⦿赤本に出てこないような難しい用語は、問題文の中で説明されていることが多いので、聞いたことのない用語が出てきても焦らず、問題文をよく読んで設問に臨みましょう。


なお、「前方照応」についてピンと来ない人は、赤本P145に記載してあるので、よく確認しておきましょう。




問3 「プロセス・アプローチ」の説明として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P224


プロセス・アプローチとは・・・

(赤本P224からの引用)

文章を書くことを思考の循環的なプロセスであるとし、文章を推敲する過程を重視して、何度も書き直しをさせる方法。

キーワードはズバリ推敲です。したがって、正解は3になります。


1 問題文に「プロセス・アプローチは、一定の長さの産出が求められる中・上級の作文指導に取り入れられている」とある通り、一定の長さをもった中・上級の作文には文章構成や論理性が求められます。思いついたことを、脈絡もなく思いついた順に書くという内容の選択肢1は、初級レベルの
内容ではないかと思います。

2 「語彙や文型を段階的に増やす」「正確さに注意する」という内容の選択肢2は、問1の答えだったオーディオ・リンガル・メソッド的な考え方であり、初級レベルに対する内容であると言えます。「正確さ」に重点を置くのは初級の指導であり、中・上級の指導では「流暢さ」に重点を置くということを確認しておきましょう。

4 「専門領域に特有な表現」「文章構造のパターンを利用して書く」ということは確かに中・上級レベルに指導する内容ではあると思いますが、「プロセス・アプローチ」の説明としては適当ではありません。中・上級レベルの指導について理解できているけど、「プロセス・アプローチ」は知らないという人は、選択肢3か4で迷ったことと思います。


☞超重要絶対暗記 《プロセス・アプローチ》
⦿プロセス・アプローチ:学習者が作文を仕上げて行く過程(プロセス)を重視した作文指導法で、プロセス・ライティングともいう。書く行為においては、推敲・修正の繰り返しが思考を深め、新たな発見を促し、それが文章の再構築を生み出すという考え方に基づく。




問4 「中・上級の作文指導」に関して、「引用」の指導が必要な文を選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:P207


この問題は、学習者が書いた文の中から、引用のルールが守られていないものを見つけ出すというもので、非常に実践的で良い問題だと思います。


1 選択肢1の文を正しく直すとすれば、「学校教育における重要な点は、子どもたちに学習を押しつけないことである」となるでしょう。文末の処理の仕方に問題がある文ではありますが、書かれている内容は、この文を書いた人の意見であり引用ではないため、引用の指導が必要な文には当たりません。

2 選択肢2の文を正しく直すとすれば、「川崎市は、重工業が発展した地域にとってとして知られているということである」となるでしょう。“川崎市が重工業が発展した地域”ということは、世間一般に広く知れ渡っている知られている周知の事実と捉えられるので、誰か特定の人の意見や考えの引用には当たらないものと考えるのが妥当と言えます。選択肢2は、「にとって」や「ということである」という言葉の使い方に誤りがあるだけで、、引用の指導が必要な文には当たらないと思われます。

3 選択肢3の文を正しく直すとすれば、「日本人は自分の意見をうまく表わす、ああいう機会が少なかったのだと思われる」、もしくは「・・・・表わす、ああいうという機会が少なかったのだと思われる」、または「・・・・表わすああいうそういう機会が少なかったのだと思われる」となるでしょう。いずれにしても、自分の考えを記した文であり、引用は確認できないので、引用の指導が必要な文には当たりません。

4 選択肢4の文を正しい文に直すとすれば、「山口によれば、専門家になるためには大学時代が重要だと指摘している。」または、「山口によれば、専門家になるためには大学時代が重要だと指摘しているということだ/とのことだ。」となるでしょう。いずれにしても、「専門家になるためには大学時代が重要」の部分は山口氏による言葉の引用であることが分かります。よって、引用箇所には引用元を明記して、引用箇所がどの部分なのか明確に分かるよう「」を付けるといった「引用」の指導が必要になります。


したがって、正解は4になります。




問5 「ピア・レスポンス」の説明として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚ピア・レスポンス〛P224、〚ピア・サポート〛P255、〚ディクトグロス〛P225、〚プロジェクトワーク〛P223


赤本をしっかり読んで「ピア・レスポンス」のことをきちんと理解できていれば、そんなに難しくはない問題だと思います。しかし、曖昧にしか理解できていないと、他の選択肢と迷ってしまうかもしれません。


ピア・レスポンスとは(赤本P224からの引用)
学習者同士が互いの作文を読み合い、文章の内容や形式の両面にフィードバックを行うことで、文章の改善を図る活動。

したがって、正解は1になります。


ちなみに、他の選択肢は、

2 ピア・サポートの説明だと思われます。
3 ディクトグロスの説明だと思われます。選択肢の文に「聞いたテクストを・・・」とある通り、ディクトグロスは聞く技能のための活動です。
4 プロジェクト・ワークの説明でしょうか。一般的にレポートは報告書や論文のことで、作文とは異なるものです。


☞超重要絶対暗記 《ピア・レスポンス》
⦿ピア・レスポンス:学習者同士が互いの作文を読み合い、文章の内容や形式の両面にフィードバックを行うことで、文章の改善を図る活動。


ちなみに、前年度(平成30年度)の記述式問題が「ピア・レスポンス」に関するものだったので、近年「ピア・レスポンス」が重視されていることがよく分かります。

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