2020年7月7日火曜日

2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ問題16の解説

問1 「『国語教育』と『日本語教育』は異なる」に関する記述として適当なものを選ぶ問題


この問題のように、ひとつ目の選択肢の内容が難しい知識を要するもので、「やべ、分かんねー」って思ってしまうと、この問題に対する受験者の心理的ハードルは一気に上がり、その途端にこの問題の難易度は上がってしまいます。

しかし、この問題は冷静に考えればそんなに難しくはありません。


1 問題文を見ると「『国語』は近代になって成立したものである」と書いてあります。近代は明治から日本が敗戦した1945年までのことですから、「国語」の概念が成立する前の16世紀に「国語教育」が存在するはずはありません。よって、選択肢1の内容は適当ではありません。

2 日本語教育は、日本語を母語としない学習者に対する日本語の教育のことです。年齢を制限するものではありません。よって、選択肢2の内容は適当ではありません。

3 「国語教育」は、日本語母語話者を対象にした日本語についての教育のことであり、「日本語教育」は、日本語を母語としない学習者を対象にした日本語についての教育のことですので、選択肢3の内容は適当と言えます。

4 まず、選択肢に「検定教科書」とありますが、「検定」というのは、日本語教育の分野において「日本語教育能力検定試験」のことを指す言葉なので、「検定教科書」は日本語教育能力検定試験用の教科書のことを指します。

日本語教育を教える学校や講座の中には、検定教科書を用いているところもあるかもしれませんが、検定教科書はあくまでも「日本語教育能力検定試験」用に作られたものですので、選択肢4の内容は適当ではありません。


したがって、正解は3になります。




問2 「「国語」は近代になって成立した」に関する記述として適当なものを選ぶ問題


難しい知識を問う問題です。赤本の内容だけでは太刀打ちできません。残り時間も少なくなってきていると思いますので、選択肢をバーッと読んで「これだ!」と思うものがなければ、適当に選んで記述問題に時間を割り当てましょう。


1 「「国語」が国民統合の象徴としての役割を担った」ことに関しては、文化庁のホームページに次の記述があります。


近代国家においては,言語は人々の生活や意識の基盤として,国民統合のために重要な役割を果たしてきた。

文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語施策情報 | 第22期国語審議会 | 国際社会に対応する日本語の在り方 | �T国際社会における日本語


よって、選択肢1は適当と言えます。


2 「お国言葉」は、生まれ育った地方・地域の言葉(方言)を指す言葉です。

「お国言葉を再評価する~」という記述は、問題文4行目の「『標準語』や言文一致体の成立」と相反する内容なので、選択肢2の内容は適当ではないと判断することができます。

3 「古典に基づく日本固有の思想の研究」は国学のことでしょう。国学は江戸時代に成立した学問で、有名な国学者には契沖本居宣長賀茂真淵などいます。よって、近代に成立した国語が国学の研究を発展させたとする選択肢3の内容は適当ではないと判断することができます。

4 何のことを言っているのでしょうか。当用漢字表で漢字数を制限したことでしょうか。それとも漢字の簡易慣用字体のことでしょうか。当用漢字表の成立は1946年だし、簡易慣用字体はワープロの普及によるものなので、いずれも近代のことではありません。いずれにしても、「国語」が成立した近代以降で、語彙や文法が簡略化された事例が思い浮かばなければ、選択肢4の記述は適当ではないと判断するしかありません。


正解は1になります。




問3 「標準語」に関する記述として不適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚標準語〛P163


この問題は、選択肢1~3まで、難しい知識を要する内容が続くため、「分からん!」って思考停止してしまいそうですが、正解となる選択肢4は、選択肢1~3の内容に比べれば、それ程難しい内容ではないと思います。


4 「共通語と標準語って何が違うの?」「違いが分からない」という人が多いと思いますが、そう思うということは、両者は似たような言葉であって対立する概念ではないと判断できるのではないでしょうか。


☞超重要絶対暗記 《共通語と標準語》
⦿共通語:1つの国の中で、地域的な属性や社会的な属性による違いを超え、共通に用いられる言語変種。
⦿標準語:1つの国の中で、国などの政策によって規範とされる言語変種。


したがって、正解は4になります。




問4 「言文一致体の成立」に関する記述として適当なものを選ぶ問題


💡解法のポイント
⦿この問題も選択肢の内容だけを吟味すれば、細かい知識が必要となる非常に難しい問題ですが、文脈から考えれば、難易度をグッと下げることができます。


1 「南部義籌なんて知らねー」「建白って何だよ?」と思うかもしれませんが、ポイントはその部分ではありません。そのあとに続く「口語をできる限り文語に近づけるようにした」という箇所です。この記述は「言文一致の成立」とは真逆の内容なので、選択肢1は「言文一致の成立」に関する記述として適当ではありません。

なお、南部義籌は、「口語をできる限り文語に近づけるようにした」のではなく、漢字を廃止してローマ字で綴るようにしようとしたようです。


2 記述の通り、二葉亭四迷山田美妙も、話し言葉で小説を書くなど言文一致を推し進めたそうです。

3 言文一致が成立したという文脈で、「口語と文語の隔たりを、(中略)解消しようとした」とする記述の表現はおかしいです。「しようとした」というのは、「しようとしたけど、できなかった」という意味を暗に含んでいるので、選択肢3は「言文一致の成立」に関する記述として適当ではありません。

なお、学制は、明治政府が近代化を推し進めるために、国民の教育レベルを上げることが目的だったようです。


4 「第1条 大日本帝国ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス」「第3条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」など有名な条文だと思います。大日本帝国帝国憲法は、漢字とカタカナ混じりの文語体で記されていますので、「大日本帝国憲法の公布以降は、公用文も口語体で~」という選択肢4の記述が適当でないと判断できます。

なお、第二次世界大戦前まで、文語体は公用文で使われていたようで、話し言葉に近くなっていったのは戦後からのようです。


したがって、正解は2になります。




問5 「官民において様々な機関が設立され、「日本語教育」関する事業が行われている」に関する記述として適当なものを選ぶ問題
 
📖赤本(第4版)関連箇所:〚国際研修協力機構〛P366※22、〚国際協力機構(JICA)〛P365、〚青年海外協力隊〛P381「日本語教師海外派遣プログラム」、〚定住促進センター〛P356※4、〚日本語コーパス〛P206、P256、〚国際交流基金(JF)〛P380


1 青年海外協力隊を派遣しているのは、国際協力機構(JICA)です。

2 定住促進センターインドシナ難民のために開設されたものです。

3 赤本では、国立国語研究所日本語コーパスでしか出てきませんが、ウェブサイトで確認してみると国立国語研究所は日本語教育専門家の派遣は行っていないようです。国際交流基金は日本語専門家の派遣を行っています。

(参考)https://www.ninjal.ac.jp/

4 国際交流基金については、赤本のP380-381にかけて、『まるごと』や『エリンが挑戦!にほんごできます。』などの教材の開発、海外の日本語教師のための訪日研修、海外での日本語教育を充実させるための様々な取り組みについて記載してあります。


したがって、正解は4になります。

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