問1 「協調の原理」に関して、「関係の公理」に違反している例を選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:P136~
協調の原理とは、問題文に記載してある通り、「話し手が、聞き手にメッセージを理解してもらうために適切に伝えようとする」ことです。教科書的に言うと以下の通りです。
会話において、話し手は会話の目的や方向の流れを無視した発言はしないし、それまでの内容と矛盾するような発言もしない。その前提に基づいて、聞き手は話し手の言うことを信じるし、その内容を理解するように努めようとする原理原則です。
で、問1の設問を読んで、(相手に適切に伝えようとする)協調の原理には「関係の公理」っていうのがあるんだなあと思いながら、選択肢を見てみれば、「協調の原理」や「関係の公理」という用語を知らなくても正解を選ぶことができるのではないかと思います。
選択肢4だけ、聞かれた質問とはまったく関係ない答えをしているので、これが「関係の公理」に違反しているってことなのか!と気づくことができるのではないでしょうか。
したがって、正解は4になります。
なお、協調の原理の4つの公理は以下の通りです。
☞超重要絶対暗記 《グライスの「協調の原理」における、4つの「会話の公理」》
⦿量の公理:必要な量の情報を提供し、過剰な情報や少なすぎる情報は与えないということ。
⦿質の公理:自分が本当のことではないと知っていることや確信していないことは言わないということ。
⦿関係(関連性)の公理:会話の内容と関係のあることだけを話すということ。
⦿様式(様態)の公理:不明瞭な表現や曖昧な表現は使わず、順序立てて簡潔に明瞭に話すということ。
ちなみに、選択肢1,2,3は、
1 はっきりしない曖昧な答え方をしているので、様式(様態)の公理に違反している例と言えます。
2 ざっくりし過ぎて情報量が不足した答え方をしているので、量の公理に違反している例と言えます。
3 不明瞭な答え方をしているので、様式(様態)の公理に違反している例と言えます。
問2 「間接発話行為」の例として適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:P135「間接発話行為」
間接発話行為とは、発話の意図を間接的に伝えることです。たとえば、ペンを借りたいときに、「ペン貸してください」と直接的に聞く人はあまりいません。多く人は「あのー、ペンありますか?」とか「何か書くもの持ってますか?」って、貸してほしいことを間接的に伝えると思います。そういう発話行為が間接発話行為です。
もしかしたら、低コンテクストの文化の国では直接的な表現が一般的かもしれませんが、少なくとも日本においては、間接発話行為が多い文化と言えると思います。
というわけで、
選択肢2の「時計、持ってますか」は、決して時計を持っているかどうかを知りたいわけではなく、間接的な表現を使って時間を聞いているわけですから、これが間接発話行為になります。
したがって、正解は2になります。
☞超重要絶対暗記 《間接発話行為》
⦿間接発話行為:直接的ではなく、間接的な別の発話をすることで、相手に発話意図を伝えること。たとえば、ボールペンを貸してほしい時に、直接的に「ボールペンを貸してください」と言うのではなく、「ボールペンあります?」とか「ボールペン持ってますか?」と聞くこと。
問3 「フェイスを脅かす行為(FTA:face-threatening act)」に関する記述として適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:〚ブラウン&レビンソンのポライトネス理論〛P141~
ブラウン&レビンソンのポライトネス理論におけるフェイスとは、人間関係における基本的な欲求や振る舞いを指すもので、フェイスを脅かす行為(FTA:Face-threatening act)とは、相手の基本的欲求を脅かす行為を指します。
しかし、この問題は、「フェイス」や「FTA」といった言葉の意味を問うものではなく、下線部の文の意味を問う問題、つまり文脈を問う問題なので「フェイス」や「FTA」の知識はまったく必要ありません。
💡解法のポイント
問題文を読まずに設問と選択肢だけを見てしまうと、どの選択肢も難しいことが書いてあってどれももっともそうなめちゃくちゃ難しい問題になってしまいますが、
この問題は、下線部Cの文の意味を問う問題なので、問題文を読まなければ解くことができません。逆に言うと、問題文を読んで文脈さえ理解できれば、めちゃくちゃ簡単な問題です。
下線部Cが含まれる段落の主旨は、同じ段落の最初の一文「メッセージのやり取りの際には、聞き手への配慮が重要」ということです。で、その考えに基づいて提唱されたのがポライトネス理論で、その理論の中で言っていることが下線部Cのフェイス云々、という文脈です。
4つの選択肢の中で、「相手への配慮」という文脈に沿った内容の選択肢は、3だけです。
だから、論理的に、明らかに、正解は3になります。
「相手のフェイスも保持しよう」ということが相手を配慮した行為であることは、「フェイス」の意味を知らなくても分かると思います。
それに対して、選択肢1の「相手との社会的距離」とか、選択肢2の「伝達の効率性」とか、選択肢4の「言語圏や文化」などは、文脈とは全く関係ない内容です。
この問題は読解問題であって、それぞれの選択肢の内容が正しいかどうかは問題ではありません。この問題を解説したものに、選択肢1の内容はこの記述が間違っていて、選択肢3はここが違って、選択肢4はこの記述が間違い、というような解説をしたものをよく見かけますが、
残念ながら、そういう解説をしている人は、この問題の主旨が分かっていません。
この問題は、「正しい内容の選択肢はどれか」というものではないので、各選択肢の内容の正誤ははどうでもいいことです。
選択肢1,2,4は内容が正しくないから間違いなのではなく、文脈に沿っていないから間違いというわけです。
☞超重要絶対暗記 《ブラウン&レビンソンのポライトネス理論》
⦿ブラウン&レビンソンのポライトネス理論:ポライトネスとは、会話の参与者に不要な緊張を与えることがないように配慮するなど人間関係を円滑にしていくための言語行動のことであり、「ブラウン&レビンソンのポライトネス理論」は、フェイスという概念を用いたポライトネス理論のこと。
⦿ポジティブ・フェイス(積極的フェイス):他者に近づきたい、繋がりたい、他者から受け入れられたい、認められたいという他者や集団との関わりを望む欲求のこと。
⦿ネガティブ・フェイス:(消極的フェイス):他者と離れていたい、他社に自分の領域に入りこんで欲しくない、自由でいたいという他者や集団から距離を置くことを望む欲求のこと。
問4 「ストラテジー」に関して、「ポジティブ・ポライトネス・ストラテジー」の例として適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:〚ポライトネス・ストラテジー〛P140,P142(上段)
ポライトネス・ストラテジーとは、相手のポジティブ・フェイスやネガティブ・フェイスを侵害しないように配慮した内容の話や話し方をすることです。ポジティブ・フェイスやネガティブ・フェイスについては、問3の☞超重要絶対暗記をご参照ください。
選択肢3のチョコが好きな相手にチョコを勧める行為は、チョコが欲しくて(チョコをもらいたくて/チョコをもらうために)、チョコを持っている自分に関わりたいとと思っているであろう、チョコが好きな相手の欲望を配慮した言語行為であると考えられます。
したがって、正解は3になります。
なお、選択肢4は、きっと自分の領域に入り込んで欲しくはないであろうという相手のネガティブ・フェイスを確保するような聞き方になっているので、ネガティブ・ポライトネス・ストラテジーの例と言えます。
☞超重要絶対暗記 《ポライトネス・ストラテジー》
⦿ポライトネス・ストラテジー:相手のポジティブ・フェイスやネガティブ・フェイスを侵害しないように配慮した内容の話や話し方をすること。
問5 「待遇表現」に関する記述として適当なものを選ぶ問題
📖赤本(第4版)関連箇所:P88、P347
1 待遇表現には、他者を低く位置付けるぞんざいな表現も含まれますので、選択肢1は適当な内容です。
2 自分に対して用いる敬語(自敬表現)と言われても、なかなか具体例が思い浮かびませんが、昔の偉い人が自分のことを「予(よ)」と言ったり「朕(ちん)」と言ったりすることでしょうか。いずれにしても、今の天皇が話しているところを思い浮かべれば、私たちとは違う特別な敬語表現を使用していないことが分かると思います。選択肢2の内容は適当ではありません。具体例が思い浮かばないという時点で、今はない昔の表現方法なんだろうなと判断してもいいかもしれません。
3 素材敬語と対者敬語の説明が逆です。話題の人物への敬意を表すのが素材敬語で、聞き手に丁寧な気持ちや態度を表わすのが対者敬語になります。
4 、ウチ・ソトの関係を優先し、同じ相手に対しても状況や場面に応じて尊敬語を使ったり使わなかったりするタイプの敬語を相対敬語と言います。相対敬語とは反対に、ウチ・ソトの関係や、状況、場面に関係なく、年齢などにより上下関係が固定されているタイプの敬語を絶対絶対敬語と言います。日本においては、現在もウチ・ソトの関係を重視した相対敬語が運用されていますので、選択肢4の内容は適当ではありません。
したがって、正解は1になります。
☞超重要絶対暗記 《素材敬語と対者敬語》
⦿素材敬語:話題の人物に対する敬語。
⦿対者敬語:聞き手や読み手に対する敬語。
☞超重要絶対暗記 《相対敬語と絶対敬語》
⦿相対敬語:ウチ・ソトの関係を優先し、同じ相手に対しても状況や場面に応じて尊敬語を使ったり使わなかったりするタイプの敬語。
⦿絶対敬語:状況、場面に関係なく、年齢などにより上下関係が固定されているタイプの敬語。
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