2020年7月4日土曜日

2019年度日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ問題13の解説

問1 「共同発話」の例の空欄補充問題


赤本に共同発話に関する記述はありませんが、問題文から、共同発話は複数の発話者によって作られる会話であることが読み取れます。

それに当てはまるのは、Xの「毎日寒くて寒くて・・・」という発話を受けて、Yがその続きを付け加え、「毎日寒くて嫌だ」という文が作られている選択肢2と言えるでしょう。


したがって、正解は2になります。




問2 「繰り返し」に関する記述として適当なものを選ぶ問題

📖赤本(第4版)関連箇所:〚結束性〛P145


たとえば、X:今日、寒いよね。Y:寒いよね。という会話を考えてみましょう。


1 まず結束性ということに関しては、XとYは同じ内容のことを言っているので、2つの発話には結束性があると言えるでしょう。発話内容の強調に関しては、X:今日、寒いよね。Y:そうだね。と言うよりも、X:今日、寒いよね。Y:寒いよね。と繰り返した方が、「寒い」ということが強調されることが分かると思います。よって、選択肢1の内容は適当とは言えません。

2 「繰り返し」は相づちの代わりになるし、相手(X)が言ったことの内容の確認にもなっていることが分かると思います。よって、選択肢2の内容は適当とは言えません。

3 「今日は寒いね」というXの発話に対し、Yは「うん」や「ね」とも発話することができると思います。繰り返しは、省略できるものもあえて省略しないでそのまま繰り返すということですから、「少ない労力」という記述は適当ではありません。

4 相手と同じ意見や考えを繰り返しているわけですから、共感や一体感を示すことになるでしょう。また、相手の言ったことを繰り返すので、そこに新情報はありません。よって、選択肢4の内容は適当と言えます。


したがって、正解は4になります。




問3 「形式上は問題はなくても聞き手に違和感を与える」例として適当なものを選ぶ問題


「じゃない」には主に次の意味があります。

①相手に対する確認
②共感や同意を求める控えめな断定
③驚きや避難を伴った断定


1 「あの人、OBの田中さんじゃないですか」という確認は①の意味に当たります。まったく違和感ない表現だと思います。

2 「それって、まずいんじゃない」という指摘は③の意味になると思います。まったく違和感ない表現だと思います。

3 「私って、暑がりじゃないですか」と同意を求めるのは②の意味に当たりますが、「私」のことを知らないであろう初対面の人に同意や共感を求めることは、相手に不快感を与えかねないので、選択肢3は、聞き手に違和感を与える例と言えます。

なお、大修館書店『明鏡国語辞典(第二版)』の「じゃないか」を引くと以下のように記載されています。


[表現](1)相手に確認したり、同意を求めたりする表現なので、「じゃないですか」の形も多い。(2)「じゃないですか」を相手が知らないことに使うのは、知らないことについて同意や共感を求めることになるので、相手に不快感を与える恐れがある。「私って甘いもの嫌いじゃないですか」




4 「飲み物なら、あそこで売ってるんじゃない」と伝えるのは、上昇調/下降調、強い口調/弱い口調などの言い方によって①でも②でも③でも捉えられる思いますが、いずれにしても、選択肢4はまったく違和感ない表現だと思います。


したがって、正解は3になります。




問4 「アコモデーション理論」のうち、ダイバージェンスの例として適当なものを選ぶ問題
 
📖赤本(第4版)関連箇所:P360


この問題は「ダイバージェンス」の意味を知っていないと正解するのが難しいと思います。


アコモデーション理論は、相手によって自分の話し方を調整する現象を説明する理論であり、そのうちのダイバージェンスは、自分の話し方をできるだけ相手の話し方と離すことを言います。逆に自分の話し方をできるだけ相手の話し方に近づけることをコンバージェンスといいます。


1 大人が子どもに合わせて育児語で話す(ベビートーク)は、コンバージェンスです。

2 周りの話し方に近づけようとせずに、方言を使うことはダイバージェンスと言えます。

3 上司が若い部下の話し方に近づけて若者言葉で話すのは、コンバージェンスです。

4 米国からの帰国生が、周りの生徒に合わせて日本式の発音で英語を話すのは、コンバージェンスです。


したがって、正解は2になります。


☞超重要絶対暗記 《ダイバージェンスとコンバージェンス》
⦿ダイバージェンス:自分の話し方をできるだけ相手の話し方と離していくこと。逸脱。分岐。
⦿コンバージェンス:自分の話し方をできるだけ相手の話し方に近付けていくこと。収束、集中。




問5 「会話の指導」に関する記述として適当なものを選ぶ問題


1 「学習者が日本語母語話者よりも相づちを多くしがち」かどうかは分かりませんが、相づちの頻度まで日本語母語話者に合わせる必要はないと思います。会話するとき、学習者にそういった細かいことまで意識させると、学習者は話しずらくなってしまうのではないでしょうか。あまり制約せず自由に会話させることが大切だと思います。

2 「教科書の会話例を忠実に再現できるように指導する」ことも大事ですが、実際の場面では、会話の相手が、教科書の会話例と同じ発話をしてくれることはほとんどありません。したがって、教科書の会話例だけでなく、臨機応変に独自に創作した会話で練習することも、会話の指導には必要だと思います。

3 「学習者の発音や文法を正確なものにする」ことは重要なことですが、話す内容まで日本人らしくする必要はありません。学習者の文化(文化的考え)を尊重する姿勢が大切だと思います。

4 振り返りや自己評価を行うことは大事なことです。自己評価で期待できる効果については、試験Ⅲの問題6の問2で問われているので、もう一度確認しておきましょう。


したがって、正解は4になります。

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